加太紀行 〈上〉

加太、と言っても関西本線の加太ではない。南海支線の終点にある加太である。

過日、回りまわってきた南海の優待乗車券を使って、南海和歌山市から加太線の乗車を行なった。

加太線は、南海本線和歌山市のひとつ手前の紀ノ川より分岐し、紀淡海峡に突き出た突端に位置する加太へと至る9.6キロの支線だ。電車はすべて、和歌山市の発着で運転されている。日中は30分ヘッドで2両編成がワンマン運転されている。

もとは明治末期に蒸気鉄道として開業した古い鉄道で、昨年、開業百周年を迎えた。単独で紀ノ川を渡った先に駅を設置した時代もあった。のちに南海本線の紀ノ川駅へ接続する形に変更するなど、歴史的に興味深い線である。

沿線の社寺などへの観光・信仰客輸送や、夏季は海水浴客輸送もあった。終点付近に、砲兵連隊の兵営もあり物資輸送もあった。のちに述べる、製鉄所からの貨物輸送で賑わった時期もあったが、すべてが無くなってしまった今、加太線には、静かな時間だけが流れている。

以下、電車の先頭から見た、加太線の車窓だ。

2013_07_09_007sy▲南海和歌山市駅に停車する、加太線の列車。当日は7195+7969の編成。3番線が加太線の専用ホームで、加太線百周年などの説明版がホーム支柱に貼ってある。

2013_07_09_009sy▲和歌山市を出る。右一線はJR和歌山方面に向かう紀勢本線、左二線は南海本線。右下にチラッと見える渡りは、JR線と南海線を接続している。かつて、南海から南紀方面への直通するDC・客車は、ここを通って国鉄に乗り入れた。現在でも、車両工場からの南海新造車の搬入は、このポイントが使われる。

2013_07_09_010sy▲紀ノ川橋梁を渡る。左の上り線は明治36年単線で架橋、右の下り線は大正11年。明治期・大正期の鉄道橋梁技術史を語る上で貴重な一組の遺産と言える。2013_07_09_017sy▲紀ノ川を出ると、南海本線と平面でクロスして、加太線に入り、すぐに単線になる。2013_07_09_021sy▲まもなく現れる梶取信号場。かつて加太線が賑わっていた時代の名残り。今でも、午前6時台の一回だけ、ここで交換がある。大手私鉄ではたいへん珍しい列車交換のための信号場と言える。2013_07_09_023sy▲北松江。以前、別ルートで和歌山市方面に向かい、その後、北島支線となった旧線の分岐駅 左の土入川に架かる歩行者専用橋は、もとの旧線の鉄橋。2013_07_09_027sy▲中松江。ここまで住金和歌山製鉄所への専用線が平行していた。左手にかつての貨物ホーム跡らしきものがある。2013_07_09_029sy▲八幡前 他の駅も交換可能になっているが、日中の交換は、ここで行われる。

2013_07_09_031sy▲西ノ庄。加太線唯一の無人駅、一面のみの交換不可能な駅。筆文字の駅名標が残っていた。

加太紀行 〈上〉」への2件のフィードバック

  1. 総本家青信号特派員様 「加太紀行(上)」を興味深く拝見しました。私の持っている本に「民営鉄道の歴史がある景観Ⅰ」があります。南海電鉄の紀ノ川橋梁が載っていて読んでみると大正4年発行の紀ノ川橋梁付近の地形図があったのでよく見ると、和歌山市駅から北東方向に和歌山口という駅があり、現在の紀ノ川橋梁より下流側に鉄道橋があって特殊軌道の記号で線路が北西方向に伸びていました。もしやこれは昔の加太線ではないかと思ってネットで検索したら、和歌山社会経済研究所のHPにある加太線のレポートにたどり着きました。読んでみるとなかなか興味深い内容でした。ということで、続きの「加太紀行(下)」を楽しみにしています。

    • どですかでん様
      ご拝読、ありがとうございます。はい、昔の加太線の跡ですね。大正4年の地図、ということであれば、大正3年に紀ノ川橋梁が完成して、現・和歌山市駅の裏手まで延長された直後ですね。 現行の紀ノ川駅経由に変更された後も、この線は北島支線として残っていましたが、昭和25年のジェーン台風で紀ノ川橋梁が傾いたため、紀ノ川右岸のみで営業を続けていましたが、それも昭和41年に廃止されます。
      紀ノ川橋梁は、いまも歩行者・自転車専用の橋として残っています。ジェーン台風による橋脚の傾きまで、そのままで、なかなかスリルのある橋のようです。
      和歌山と言うところは、鉄道趣味においては、それほど注目を浴びない地域ですが、現地へ行き、足で確かめると、いろいろな発見もあります。続きで、その一端も見ていただければと思います。

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