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【641】おじん2人ヨーロッパ軽便 その9-1
 湯口 徹  - 06/9/21(木) 15:31 -
  
CHIEMSEE-BAHN キーム湖鉄道(その1)

ミュンヘンの東南約70km、ザルツブルグの西約40kmのところにある湖がキーム湖で、DBのプリーン・アム・キームゼーから軌間1000mmの軽便鉄道=キームゼー鉄道が湖畔まで約10分。保養客ばかりだから、運行は夏季のみのようだ。

訪ねたのは1992年7月。タイ航空の安切符で夜中に「ハブ空港とはこういうものか」と嫌でも体感するすさまじいバイタリティ、あるいはエネルギッシュな喧騒の中、バンコックでチューリッヒ行きに乗換え、ボーデン湖をフェリーで渡りドイツへ。

第一目的はビベラッハの近くから発する保存鉄道のビズマール双頭車である。そのため2階、3階と上になるほど出張る独特の木造建築が有名なビベラッハの、ドライ・ケーニッヒ(3人王様)なるプチホテルを選択し投宿。

ところがドイツ語しか解さない宿の亭主から、相棒が片言ドイツ語と日本語!+ボディランゲージで一汗かいて聞き出したのは、その保存鉄道は現在運行しておらず、車輌も見られない(らしい=建物内に収納か)ということで、しょっぱなから無駄足であった。折角初日が土曜日になるよう(日曜のみ運行の保存鉄道が多い)旅程を組んだのに。

翌朝想定外の悲劇が発生。朝8時まで食事は出来ないのは承知で、いざ出発と勇んだが、なんと玄関の頑丈な樫の扉が鍵を回してもびくとも動かず、何度やっても同じ。時間はなくなる、気はあせる。何しろ7時14分の初発ウルム行きを逃すと、日曜日のため9時21分まで列車がない。

恥も外聞もあらばこそ、必死に鍵を何度も空しく試し、電話を掛けても、相手はドイツ語しか分からない。遂にヘルプ!と騒ぎ立ててやっと、ガウン姿の亭主がおりてきて、それからが腹が立つではないか。
鍵を普通に回し、もう一回同じ方向に回したら、嘘のように扉が音もなく開いた!のである。

それから駅まで1km程、普通なら15分を走った走った走った。バックパックが重いが、ともかく走った。息も絶え絶え、半死半生、足元もおぼつかなく駅によろけこんだのは、電気機関車が後ろから押すペンデルツークが入ってきたのと同時だった。メモ魔の相棒のノートには、宿を飛び出したのが7時7分とあるから、7分で走ったのである。当時小生は50代後半で、今なら走る気も起こらないか、悶絶するかであろう。

ウルム駅のキオスクに、日本ではついぞ見ないジンビームのコーラ割り缶を売っていた。バーボンウイスキー(米国はケンタッキー州バーボン郡醸造・とうもろこし原料のウイスキーがバーボンで、フランスのブルボン王朝からきている由)には目のない(酒なら何でもいいのではない!)小生ゆえ、朝7時台は若干忸怩たる思いなしとせずとも、一生再遭遇できない恐れ多分にあり、あえて試飲をせざるを得なかった。

ウルムからICに乗換え、ミュンヘンを経て東へ。ヨーロッパの大都市駅はほぼ全部行き止まり式で、前頭の機関車を切り離し、待機していた機関車を今までの後尾につけて折り返す。その停車中に鹿島雅美氏が我々2人を見つけたというから、世間、いや世界は狭い。諸兄、外国だからといって、へんな行動は厳に慎まれよ。誰が見ているか分からんですゾ。

と、これでやっと列車はプリーン・アム・キームゼーに到着した。読む方も疲れたろうが、こっちも疲れた。

この軽便鉄道は、1887年製のアラン式弁装置B型、しかも屋根つきスチームトラム様の60馬力クラウス機関車(製番1813)が牽引するのがウリである。通常火室背後にある焚口が、ペショやフェアリーの如く横にある。鉄道105周年のヘッドサインをつけていた。

客車も機関車に負けず古く、東ドイツと違ってよく手入れがなされており、内装が絹布(であろう)のものもある。サイドに窓ガラスがなく、開放式のような客車は夏季専用のようで、雨に備えてキャンバスを巻き上げているのがお分かりであろう。これらはすべて馬車時代の名残である。右側で機関車はホースで給水中。


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