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【890】「鉄子の旅」イザ!より転載 6/10
 元祖・青信号編集部  - 07/6/10(日) 23:34 -
  
“鉄分”充填!行ってみました「鉄子の旅」

 「オタク」なる語が定着して何年だろう。「メード喫茶」を筆頭に、オタク文化もメジャー化し、日常の世界のものとなった。それでも暗いイメージを感じるのは、“鉄ちゃん”と呼ばれるオタクが蠢く鉄道趣味の世界だろう。ところが、そんな“鉄(テツ)”にカリスマが登場し、さらには「鉄子」と呼ばれる女性版の“鉄”まで急増しているらしい。また、千葉県のローカル線にて集団で「全駅で下車する」イベントまで開かれた。怖いもの見たさで覗いてみた“鉄”の世界とは−。(イザ!編集部・立川優)

 ■日本の全9843駅を制覇…

 どうしても理解したくない、いや、理解しにくい鉄道趣味。それが女性の間でも人気という。きっかけは、月刊誌「IKKI」(小学館、http://www.ikki-para.com/)に掲載された漫画「鉄子の旅」だ。作者の菊池直恵さんが、トラベルライターの横見浩彦さん(45)と全国を旅するルポマンガなのだが、「普通の女性」と「“鉄”の中の“鉄”」とのギャップを、夫婦漫才のように面白く描いており、“鉄”への偏見もどこへやら、読んでいて素直に楽しい作品である。

 主人公、横見さんは、日本中のJR・私鉄すべての駅、計9843カ所で下車し尽くすという前代未聞の「偉業」を平成17(2005)年に達成した人だ。そんな彼の案内による旅だから安心、と思いきや作者を襲うのは“鉄”ゆえの波乱ばかり。旅の楽しみの「観光」「グルメ」は存在せず、ひたすら鉄道に乗らされる。駅弁でさえ列車の乗り換えを優先するあまりコンビ二弁当ばかりとなる。さらには、飛行機なら1時間半の東京−鹿児島を2泊3日費やし鈍行列車で移動する▽ローカル線の最終日、“鉄”の集団の一人でイベントに参加する▽廃線跡を歩いたり、ひとけのない駅で不審者がられつつ下車して、捨て置かれた“秘境駅”を見て興奮する−など、まさに「事実は小説より奇なり」を5年かけて地で行った。

 そんなハラハラ感が魅力なのか、「鉄子の旅」単行本(全6巻)も、30万部を超える人気ぶりで、ファンならずともリアルに動く横見さんを見てみたくなる。ついにTVアニメ化も決定し、今月24日からCS放送局「ファミリー劇場」で毎日曜日に放送される(http://www.tetsuko.jp/)。これを記念し、マンガに登場した「銚子電鉄 全駅乗下車」の限定ツアーも行われた。2ちゃんねるや「ぬれ煎餅」で有名な、あの銚子電気鉄道(http://www.choshi-dentetsu.jp/)である。

■クールなヨコ様、きっかけは…

 ブームとはいえ、ただひたすらに鉄道に乗って駅で降りるだけのイベント…そう思うのは普通の人の感覚だが…9日に行われたツアーには41人が参加した。遠くは愛知や滋賀、兵庫県などからやってきた人もいる盛況ぶり。しかも全長6.4キロ・全10駅のミニ鉄道を、たっぷり6時間かけるスケジュールだから、よほどの鉄道好きでないと暇を持て余してしまう。そんな物好きの一行に女性が18人! やはり「鉄子」は存在した。

 彼女らのカリスマ、横見さん。漫画では、ハイテンションで鉄ちゃんぶりを発揮しているが、実物は背が高くクールな男性だ。甲高さのある声だが、さほど鉄っぽくはない。ところが、鉄子軍団からサイン攻めにあったためか、「しゃべるのは不得意」と前置きしつつも自己紹介トークが爆発した。“鉄”のきっかけは小学生の時分で、友人が中央線の全駅名を諳(そら)んじたことに対し、「ならば俺は八高線(八王子市と高崎市を結ぶ)を覚えてやる」との小さな対抗心だったそうだ。それを機に時刻表を集め出し、“鉄” の世界へ。高校1年の時には、当時の「ワイド周遊券」という格安チケットで九州を旅行したことで「乗り鉄」(=列車に乗って鉄道旅行をする趣味)を始めたそうで、以来、大学卒業後はフリーターの道を選び、乗り鉄の道を究め続けている。

 ちなみに、ひとことで“鉄”といっても、「乗り鉄」以外に、カメラ撮影が中心の「撮り鉄」、駅の発車ベルや車内アナウンスを録音する「録り鉄」などなど、さまざまといい…ああ、やっぱり奥が深い。

■さすが「鉄子の旅」。飛ばし過ぎ…

 そんなカリスマと行く、文字通りの「鉄子」の旅。単行本1巻目に登場したスケジュールも忠実に再現されているのだが、これが「三歩前進、二歩後退」そのもの。全駅で下車することを絶対条件としながら、いかに効率的に制覇するかが腕の見せ所、と横見さん。

 この日、出発したのは、JR駅構内にある「銚子」駅。漫画で登場した風車は外されていたが、ちょっとロマンチックな駅舎である。その前でタバコを一服する横見さんだったが、だれかがカメラを向けた途端、即席の撮影会が始まってしまった。まるで空港などで芸能人を見つけ、フラッシュの嵐を浴びせているようなもの。ヨン様ならぬヨコ様の誕生である。同行していた、アニメ版の主題歌を歌う「SUPERBELL"Z」(スーパーベルズ)の野月貴弘さんが加わり、2人で次々と決めポーズ、さらに盛り上がる。野月さんは、駅のアナウンスをラップ調で取り込んだ作曲を行うDJで、そのスタイルは長髪に駅長帽をかぶったユニークなもの…当然、“鉄”である。断っておくと、まだ始発駅で、電車にさえ乗っていない状態である。これが“鉄”のハイテンションなのか? ついていけそうにない…。漫画の作者、菊池さんの気持ちが良く分かる。

■最高の楽しみ方は…

 ところが、である。さすが“鉄”の一行。ホームに古めかしい電車が入ってくると、ひとり、また、ひとりと車両にカメラを構えだした。このご時世である。男性は一眼レフ、女性はコンパクトデジカメ、もっていない人も携帯電話を取り出しいっせいに撮影するのだ。繰り返すが、まだ出発していない。。。

 そんなこんなで、ようやく1001と番号が打たれた1両に乗り込んだ41人。朝の満員ラッシュさながらの車内には、扇風機のみでクーラーがない。よく見れば前方に「営団地下鉄銀座線」との金属タグがある。どうやら元は営団(現・東京メトロ)で活躍した車両らしい。汗だくになるのは仕方がないが、と横見さんに話を振ると、「普段はこんなに込んでいないから、窓を開ければいいんだけど」と解説、ガハハと笑ったきりで窓を開けようとはしなかった。この行き当たりばったり感が楽しいようだ。

 と、すぐに東隣で銚子電鉄の本社がある「仲ノ町」駅についたが、まずは通過。さらに2駅隣の「本銚子」駅で下車した。記念すべき第一歩である。が、駅には何もない無人駅。周りは緑に囲まれ、木造の駅舎がぽつんとあるのみ。ここで何をするのだろうか…次の電車を待つのである。効率よく下車するために、重要度の低い?駅での滞在時間を最小限に、かつ、ひとつひとつ乗り潰していくために、逆方向の電車に乗るワケだ。好天の下、「ぼーっと自由に駅舎でも見て、自由に待つ。これが最高」(横見さん)。

■「衝撃」のタブレット交換…

 戻ること1駅で「観音」駅に。名物の「鯛焼き」をみなで頂く。漫画では、「鯛焼きといえばアンコ!」という横見さんの“駄々捏ね”で、一行は中身がクリームの鯛焼きを食べ損ねているが、今回のツアーも同様にアンコを選ぶ。では横見さんはどうなのか、と振り向くと満面の笑み。アンコ以外の選択肢は脳裏にないようである。この駅で40分、舌鼓を打ってから、2駅進んで「笠上黒生」駅で降りる。
 この駅は、「タブレット交換」が行われる必見の場所だ。単線の鉄道で列車同士が正面衝突しないように、特定の駅ですれ違う際に「タブレット」と呼ばれる通行手形を受け渡すことなのだが、一部のローカル線に残るのみの作業である。

 さあ、タブレット!と、のどかなホームでカメラを構えるが、事情に不慣れで交換の場所やタイミングがつかめない。ワンマン運転だから、運転席の窓ガラスに見定めてズームレンズを動かしたものの、慣れた鉄道マンの動作は素早く、しかも直接の手渡しではなく、いったん線路に下りてからの交換だった。最大の見せ場を見事に撮り損ねてしまった。ハハハ。。。

■徐々に嵌っていく楽しさ

 かくて行程も鉄道知識も「三歩前進、二歩…」を繰り返し、2時間をかけて従来の終着駅「外川」駅に到着。映画「鉄道員」に出てくるような駅舎の前で、ちょっとした達成感を感じている自分に気付く。乗って、撮って、揺られて、また乗って、ついでに自然・太陽も楽しんで…。これが“鉄”の楽しみ方なんだろうか。

 滋賀から来た会社員(33)は、「人それぞれの楽しみ方がありますから」という。彼は「硬券」と呼ばれる昔ながらの分厚い紙の切符を見せてくれた。各地で集めていて、銚子電鉄の「孤廻手形」(一日乗車券)を入手することも今回の楽しみの一つだ、という。また、愛知県の男性は、「ただ、模型だけは嵌りたくない。高架構造の駅舎や地下鉄まで自宅に再現したくなり、キリがなくなるから」。

 一方で、純粋に旅の側面を楽しむ、というのは、夜行で前日はせ参じた福井県の伊藤あずささん(24)。色白の北陸美人だが“鉄子”ゆえの悩みがあるそうで、「友だちに鉄子がいない」。同性の友だちには鉄道趣味を打ち明けておらず、今回は会社員の男性(25)と参加した。ところが、彼の鉄道への興味は「ありません」。今回は彼女に強引に連れてこられた、という不思議さだ。「頼まれたので来ただけ。私は“鉄”ではありませんが、理系出身なので、SLとか電気機関車なら興味はありますけど」。立派な一眼レフで車両を狙う貴方は、十分“撮り鉄”だと思うのですけど…。
               ◇
 こうして三々五々、帰路も駅下車を楽しみながら過ごした41人の“鉄”と“鉄子”の1日が終わった。結局、鉄道オタクって何なのだろうか。

 “鉄”という表現に、どうしてもネガティブなイメージを払拭できない。それを痛感している横見さんは「鉄ヲタブランド化計画」を考えている。大風呂敷のようだが、真剣そのもので、「鉄道オタクこそ、カッコイイ」というトレンドを作っていこうというものだ。まずは雰囲気作りから、というわけだ。

 そんな横見さんを象徴する口癖がある。「鉄子の旅」の代名詞のようなフレーズで、「今日もいっぱい列車に乗れるぞ!!」。
 まるで無邪気さの塊のような言葉遣い。今、鉄道ブームが起きている背景は、この童心のような情熱と純粋さゆえ、かも知れない。

引用なし
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【890】「鉄子の旅」イザ!より転載 6/10 元祖・青信号編集部 07/6/10(日) 23:34

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