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地道に、寡黙に、静かに売れている『京阪特急』、まるで老人の人柄そのもののような本に、ちょっといい話がもたらされたので紹介しよう。
過日、特派員のところに出版元から連絡が入った。なんでも、表紙に載っている特急8000系を運転されている方からだという。てっきり、本人の許可なく表紙に掲載したことの抗議かと一瞬怯えてしまった。しかし、聞いてみると、内容はその反対だった。
なんでも運転士仲間から、自分が表紙に載っていると教えられ、ぜひ写真を分けてほしいというのだ。最近は肖像権がやかましくなり、とくに表紙など目立つところへの掲載は注意しなければならない。今回も、車両の中に写り込んでいる乗務員や乗客は、製版時に少し濃くして顔が特定できないようにしていた。ところが、件の運転士の方は、そのカムフラージュを看破し、みごと自分であると特定してしまったのである。なんという慧眼、さすが京阪だけのことはある。
晴れて顔がきれいに出ている原版の写真をお送りしたところ、本日、丁寧な礼状が届いたという次第である。お葉書によると、この方は、乗務員生活を今年で終えることになり、今回偶然とはいえ、表紙に自分の運転する姿が載り、感激するとともに、たいへんいい記念になったということである。
老人の著書がまた人の心を癒したのである。
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