ヴィネガー・シンドロームその後(1)

先ずはこの写真をご覧あれ。憎っきネオパンSSのヴィネガー・シンドロームにやられたうちでも、まだまだ、かなりマシなネガのストレートなスキャンである。これを見て、諸兄は修復しようという意欲が湧くか?

1950年代後半以降の35mmフイルムベースが化学分解して酢酸が抽出し、やがてネガそのものを破滅させるヴィネガー・シンドロームは、一旦発生すると止めようがなく、隣接あるいは同梱の健全なフイルムをも共連れにしてしまう。最初は強烈な酢酸匂発散から始まって、次第にフィルム自体がベットリし、こうなっては後の祭りで、早めにデジタル化する以外方策はない。
症状にもバリエーションがあり、さしてベトつきはしないけれど、ネガ自体が保存方法にもよろうが、あたかも丸い塗り箸か、ストローかのように直径数ミリ、縦に丸まってしまうケースもある。これは物理的に拡げる限界を通り越しており、一コマずつに切り離し、強引にスライドマウントに納めてホッチキスで止めてスキャンした奴もいるが、ネガはそれっきりになった。

小生の場合は気付いた時時点で全部をフイルムクリーナーでふき取り、従前の硫酸紙のネガカバーはフイルムから抽出した酢酸でべっとり湿って使えないので、新しいネガカバーを購入し詰め替えた。ところがその材質が透明プラスチック?(Tsurukame氏よ、正しい名称をご教示あれ)だったので、フイルムベース分解で発生したガス?が滞留し、余計悲惨化が進んだようである。
その内フイルム自体も縮み始めた。現象が一応納まったと思われる昨今では、35mmの健全な6コマのストリップが、幅は当然35mm、長さは切り方次第だが228mmぐらい。シンドロームをくぐったフイルムは幅が33.75mm(何十年ぶりかでノギスを使って計った)、6コマ分の長さが223mmだから、幅で96.43%、長さで97.8%に縮んでおり、当然縦横比も狂っている筈である。我々の写真なら縦横比の変化もこれくらいなら問題ないが、厳密な図面なら問題になろう。

上が縮んだ、下が健全なネガ。これだけ短く、細くなって、当然間隔が狂っている。平面性は言うも愚かなボコボコで、高性能なスキャナーでは修復が困難である。しかも平面性保持のためネガホルダーが一コマごとに区切られていると、縮んで間隔が狂っているから適応出来ない。小生のDimage Scanも出番がなくなり、しかもWindowsXPにまでしか適応せず、無用の長物化した。

皮肉だが安物のフラットベッドスキャナーのほうが、レンズは安物でもその分焦点深度を深くして誤魔化しているから、かようなフイルム自体の凸凹もなんとか救える。当然鮮鋭度は落ちるが、オシャカよりはいい。なお専門家によれば、フラットベッドスキャナーの解像度表示は、誇大も極まっているとのことである。

一応ネガからのガス?発散が終わり、事態が収まったようなので、復元を試みることに。何しろ学生時代に懸命にバイトに励んで買ったフイルムが、全部オシャカになるとは、生きてきた価値を奪われるのと同義である。
先ずは紙の上に件のネガをおき、丸めた脱脂綿にフイルムクリーナーを吸わせ、力任せにフイルム面に発生した無機物?(これにもTsurukame氏のご助言を)をこそぎ落とすのである。フイルムべース自体も考えられない程薄くなっていて、一寸手元が狂ってペコッとでもすれば万事休すから、慎重に、それでいて大胆にやらねばならない。Tsurukame氏からはニベアなるハンドクリームもよいとのご託宣がある。
なおフイルムクリーナー自体はフイルムそのものの需要が限りなくゼロになって一般市販はない。仮に見つかっても富士フイルム製など目玉が飛び出るほど高価であり、細々と年金生活中の小生は、堀内カラー発売のHCL FILM クリーナー(業務用)を通販で購入して使っている。これなら惜しげもなく使え、かつ超高価な富士フイルム製と効果に大差はないように思える。

で、以後は100%デジタルの世界になる。小生のパソコンにはフォトショップ・エレメンツ2.0と8が入っているが、使い慣れた2.0で十分。ここで手間と根気と熱意とセンス次第で何とかなるものと、努力するだけ無駄なものとに分かれる。
努力しても仕方のないものは諦めるしかなく、あとは懸命にデジタル修正するだけである。上の瀬野八本松間上り特急「かもめ」の修正には、一コマに一心不乱の2時間を要した。で、「ビフォー・アフター」を。

これとて所詮は誤魔化しだから、例えば写真展用の大サイズプリントなら修正がモロに露呈しようが、まあデジアオで諸兄にご笑覧頂く程度なら、なんとかならんことはない、ということである。荒っぽい話、かように何とかレスキュー出来るネガは、半分かそれ以下程度で、これとて幸運が伴ってくれてのこと。バックが山なら誤魔化しは比較的簡単で、要は根気だけ。バックが空だと明るくして濃淡を飛ばさない限りかなり困難で、ビルだったりしたら修復不能であろう。
それにしても事態を知らない筈のないフイルム会社は、どうして我々に早めの警告なり、助言なりをしてくれなかったんだろう。要はユーザーからの苦情や賠償請求が怖かったからだろうが、それにしても卑怯極まるし、企業倫理が聞いて呆れる。これにより失われたものは限りない。また膨大な過去のフイルムストックを持つ報道機関やプロカメラマンが、特段騒ぎもせずおとなしいままなのも面妖で、事前は事後かに、何らかの形で「頭をなでられた」としか思えないのだが。
なお1970年代のフイルムからも、ほのかながら酢酸臭が感じられるようになった。ヴィネガー・シンドロームは終わっていない。皆の衆、小生の悲哀の轍を踏まぬよう、老婆心ながら申し添える。
 

 

 

 

 

 

ヴィネガー・シンドロームその後(1)」への1件のフィードバック

  1. 湯口先輩へ
    総会で、懇親会で、阪急電車の中で議論を交わして来ましたビネガーシンドローム。いよいよデジ青で公開討論です。その前に、『もっと酷いビネガーシンドローム(1)』で画像を投稿しておきました。ご覧下さい。以下はご質問への返答です。

    1.透明プラスチック・フィルムですが、言葉だけではなんとも。燃焼試験で判別できます
     お菓子か海苔の空き缶の蓋の上で、1cm角位の切れ端をピンセットで掴み、ライターで 着火して以下を観察してください。 
    1)塩化ビニルフィルム
      難燃性、炎の先端青色、黒煙、煤が出る、刺激臭がする、燃えカスは脆く砕ける
    2)ポリエチレン、ポリプロピレン
      易燃性、明るい炎、無煙、煤が出ない、蝋燭が燃える臭い、燃えてポタポタ落ちる、  カスは硬く固まる
    3)ポリエステルフィルム(テトロン)
      易燃性、明るい炎、かすかな煙、煤が出ない、カスは硬く固まる

    燃焼試験に際しては、くれぐれも細心の注意を払い行ってください。身体の近くや、周囲に可燃物があるところでは決して実施しないで下さい。火傷をしたり、衣服に焼け穴が開いても筆者は一切関知しません。なお、このコメントは自動的に消滅しません。(スパイ大作戦を真似て)

    2.フィルム面に発生した無機物?
    全てが有機物でして、無機物は一切存在しません。発生物は分解蒸発した酢酸が冷えて結晶化したものです。

    3.ニベア・スキンケアクリームよりも、アトリックス・ハンドクリームをお勧めします
    同じニベア花王(株)の商品ですが、酢酸を含むアトリックスの方が、フィルムの可塑剤的役目を発揮しますので好都合です。フィルム全面に塗布し、約1ヶ月ほど木枠に挟んでクランプなどで加圧すると、フィルムのカーリングが直ります。また、塗布した事でフィルムに悪影響は及ぼしません。これは、筆者の10年来の経験則です。

    ビネガーシンドロームには、もう10年以上悩まされております。犯されたフィルムの修復には何時間を要した事か。1コマ修復に1日はザラです。それでも諦めずに修復作業に掛かって、復活画像を投稿できるのを楽しみにしている限り、身体は健全です。

    最近のデジ青対応に、現役生の筆者は大忙しです。阪急京都線で羽村先輩の画像を投稿したら、乙訓の老人からは、京都市電運転系統図と顔写真を皆に見て貰え。とか、阪急電車神戸線も。それに今回のビネガーシンドロームが加わり、大変です。

    お陰で、録画した映画を見る暇がありません。『我等の生涯の最良の年(前後編)』、『コレヒドール戦記』、『アパッチ砦』、『つばさ』、『別離』(大好きなイングリッド・バーグマン)、『緑園の天使』(若き日のエリザベステイラー)、『イブのすべて』、『西部戦線線異常なし』(戦場に出かける学生が合唱するメロディーは同志社カレッジソングそのもの)、『仔鹿物語』(2回目、1950年頃、西宮北口で開催されたアメリカ博の時、付近の映画館で見た、筆者初の鑑賞映画)などなどが溜まっています。
    ああ忙しいこと。

       

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