山形を旅して(その3)

3日目(11月12日) つづき

JR左沢線の南寒河江と羽前長崎の間にある最上川橋梁は現役の鉄道橋としては最古のものとされており、是非見ておきたいと立寄りました。

令和7年11月12日 JR左沢線最上川橋梁

南寒河江側の橋台には近代化産業遺産、土木学会選奨土木遺産であることを示す説明看板がありました。

近代化産業遺産、土木学会選奨土木遺産としての橋梁の説明看板

英国人C.ポーナルの設計、英国PatentShaft&AxletreeCo.Ltdで1886(明治19)年に製作され、明治20年に東海道本線木曽川橋梁として架橋されたものの一部です。錬鉄製のポーナル型ダブルワーレン下路ピントラスです。時を経て 東海道本線を走る機関車の重量が増したために強度不足となり架け替えられることになり、1921(大正12)年に200フィートあった径間を150フィートに短縮改造し、ここ左沢線の最上川橋梁と旧長井線(現在山形鉄道フラワー長井線)の最上川橋梁に転用、架橋されました。製造から139年、改造後でも104年を経過して今なお現役で供用されている鉄橋です。平成13年にはJR東によって延命修繕工事も行われたそうです。なお、左沢線最上川橋梁の8連のトラスの内4連目から8連目の5トラスが対象です。

南寒河江側の5連が国内での現役最古参のトラス

寒河江発山形行き 1342Dが渡ってゆく。遠くに見える山並みは蔵王連峰。

ここでも、100年を超えて生き残り しっかりとその機能を果たしている工業製品を間近に見ることができ、それを守って来られた人々の苦労も思い併せて感動を覚えました。長井線の兄弟鉄橋も見たかったのですが、時間的な余裕が無く、先を急ぐことにしました。

4日目(11月13日)

最上川橋梁を見たあと、天童市に向い天童温泉で1泊しました。天童と言えば将棋ですが、天童駅前の将棋資料館の見学だけで満足し、仙山線の山寺に向かいました。立石寺で有名な山寺ですが、岩山の上に点在する立石寺に登る元気はないので参拝はせず、谷の反対側の斜面にある芭蕉記念館を訪ねるだけにしました。

令和7年11月13日 芭蕉堂から望む立石寺

山寺を訪ねて驚いたのは、インバウンドの多さでした。山寺駅には賑わいがありませんが、大型観光バスが何台も行き交い、土産物店やカフェが並ぶ門前町は相当な賑わいでした。「静けさや岩に染み入る蝉の声」のイメージからは かけ離れた山寺の現況でした。

山寺をあとに山形市に向かいました。今までに何度も山形を通過していますが、じっくり市内を見学するのは初めてで、新鮮でした。翌日は仙台に移動し、空路 広島に帰るので山形駅前でレンタカーを返して市内観光しました。レンタカーの走行距離は4日間で200Kmと少なかったですが、公共交通機関では行けないポイントを巡るにはレンタカーは欠かせません。でも、いつまでこのようなレンタカー利用の自由旅ができるか、心配な年齢になりつつあります。

山形市内には元県庁を改装した文翔館や山形城をはじめとする歴史ある建造物が数多く残る一方、駅前には24階建ての霞城セントラルや立派な県立図書館など近代的な面も持ち合わせた生活しやすそうな都市という印象を受けました。

霞城セントラル24階の展望デッキからは足元に山形駅が見える。発車してゆく左沢線の列車。

5日目(11月14日)

旅の最終日です。仙山線で仙台に向い、仙台空港から帰途に就くので急ぐ必要はないのですが、貧乏性と言うのか、ゆっくり寝ていることができず、いつも通りの早起きで、6:30の朝食開始を待って食事を済ませ、予定より1本早い山形発8:18の仙山線各停で仙台に向かいました。

仙山線の山形口は初乗車ですが、作並から先の仙台口は高校卒業直後の昭和43年3月30日に友人と奥中山や花輪線を巡ったあとに訪ねています。57年ぶりの作並を楽しみにクハE720-1010に乗り込みました。平日の通学通勤時間帯の山形発で、人の流れとは逆なので空いているのかと思いきや満席に近く、羽前千歳を過ぎて仙山線に入ると少し空いてきた感じでした。山寺を過ぎて長い面白山トンネルを抜けると宮城県です。面白山トンネルは全長5361m、昭和12年の開通当時は清水トンネル、丹那トンネルに次ぐ3番目の長大トンネルでした。トンネルのある面白山高原と奥新川間は8.7Kmですから、駅間の60%が面白山トンネルで、通過に5分程度を要しました。トンネル内に交換設備の面白山信号場があるのを忘れていて、見逃してしまいました。

面白山高原駅のホームのすぐ先が面白山トンネル西口

仙山線山形口の山寺から面白山トンネルまでは連続上り勾配で蒸気機関車には過酷な区間だったため、開通当初から山寺・作並間は直流電化されました。一方仙台口は昭和30年に陸前落合・熊ヶ根間が国内で初めて交流電化され、交流電機や交流電車の試験区間となりました。作並機関区には直流機関車であるED17が、また交流機関車であるED91など交直両方の機関車が並ぶ珍しい機関区だったため、昭和43年に訪ねたのでした。その昭和43年9月には直流区間は交流化され仙山線全線が交流区間となっています。直流電化時代の最後に訪ねていたわけです。そんな思い出の作並駅ですが、乗降客も少なく、ゆっくり写真を撮る時間も無く すぐ発車でした。

現在の作並駅の様子

57年前の作並での写真をご紹介して、旅行記の締めくくりとしたいと思います。

左からED1728、ED1721、そのうしろはED931、スエ3028

ED931のうしろは珍しい貨車 リム

ED911 この留置線は今も残っていた。

ED1721 前面のツララ除けが特徴

スエ3028

キ196

現在の作並は、元機関区の車庫はそのまま健在でしたが、保線や除雪用車両の留置線として使われているように見受けました。旧作並機関区やその転車台をはじめ いくつかの鉄橋などを含めた施設が土木学会選奨土木遺産「仙山線鉄道施設群」として平成26年に選定されています。作並構内のどこに転車台があったのか見落としました。

当初予定より1時間早く仙台に着き、帰路の飛行機までには充分な時間があり、どうして過ごそうかと迷いましたが、1周するのに約1時間、平日は20分ヘッドで観光ポイントを巡る「るーぷる仙台」という循環バスに乗ることにしました。荷物はコインロッカーに預け、軽装でバス停に向かいました。仙台市にもインバウンドが多く、積み残しが出るほどでした。幸い座れたので、260円で紅葉の美しい仙台市内を一巡することができ、充実した1時間を過ごせました。

仙台駅前のるーぷる仙台乗り場の様子

ホームカミングデーに引っ掛けて計画した山形の旅は収穫の多い旅でした。同じ山形県と言えども、庄内地方と村山地方では食文化も異なるなどそれぞれに特徴があり、この多様性がいつまでも維持されて、後世に伝わることを望まずにはいられません。また、庄内交通のモハ3と山形交通のモハ103の格差はショックでしたが、鉄道施設や鉄道車両の保存は先々の見通しを熟慮の上で取り組まないと、後世に大きな負担や迷惑を及ぼすことを痛感させられた旅でもありました。            (了)

 

山形を旅して(その3)」への9件のフィードバック

  1. 奥新川発作並止りの通学列車です。ED144がスハフ42を牽いて到着しました。時刻表にも載っていました。

  2. 京都から夜行列車を乗り継いで作並を訪れた最大の目的は、これでした。
    クハ490-1+クモハ491-1

  3. 藤本哲男様 作並みの貴重な写真ありがとうございます。私の訪問が昭和43年ですが、3年違いは大きいですね。ED14、ナエ、クモハ、クハは姿を消していました。ED14とは近江鉄道が初対面でした。花輪線の龍ケ森の半世紀前と今では随分変貌していましたが、作並は車両こそ違え半世紀前の雰囲気そのままでした。

  4. 私も〝街歩き〟の楽しさを、自分なりに実践しています。テーマは、県庁所在地ウォークです。東京や大阪では図体が大きすぎ、かと言って地方の小都市では刺激がありません。ちょうど山形のような県庁所在地が最適で、私も数年前に山形を一人で気ままに半日歩いて、バスで仙台へ、空路で帰りました。県庁所在地ウォークで、実践しているのは、自分の足で歩く(一日2~3万歩)、バスを観察する(鉄道より地方色が感じられる)、近代建築を見る(煉瓦建築、下見板張りが最高)、できれば宿泊する(愛用の東横インがだいたいある)の4つです。山形には、すぐれた近代建築があって、緑も多く、まち全体が清々しい雰囲気にあふれていました。最近は、あまり外出できないのが残念ですね。

  5. 山形市などの街歩きの楽しさ、同感です。
    新幹線開業前、東京から夜行列車では到着が早すぎ、日中の列車では有効に使える時間が少ない、ということで、山形は足が遠のいていました。
    山形新幹線、地平を走る適度なスピードと心地よい走行音。新在直通の楽しさを味わえるのもいいですね。但し、天候に左右される運休がしばしば発生しますが。
    山形市の中心部にあった大沼デパートが5年ほど前に閉店し、山形県は百貨店のない唯一の県になったそうですが、文化都市の雰囲気が感じられ、適度な賑わいをもった歩くにはいい街です。沿線には、米沢、長井、寒河江などの小さいながら好きな町が多いエリアです。

    • 高田様 山形市街地はおっしゃるように落ち着きのある良い雰囲気があり、大変好感が持てました。鶴岡も同様でした。自分自身が地方の小都市に住んでいるせいか、巨大都市の喧騒と人混みにはなじめず(昔は京都人だったのですが)、地方の中小都市の方がよっぽど住みやすいのにと思ってしまいます。

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