地図を携えて線路端を歩いた日々 -25-

羽越本線の要衝である酒田を出発した列車が北東に進路を変えると、前方には長く裾をひいた、独特の山容を見せる鳥海山が見えて来ます。吹浦付近で庄内平野は終わり、女鹿~小砂川で県境を越えて、秋田県に入ると、再び海岸線を走るようになりますが、笹川流れほどの厳しさはありません。有耶無耶の関の跡を見て、まもなく到着するのが象潟、芭蕉も立ち寄った、海に小島が点在する景観は、地震で隆起して陸化し、いまは水田のなかに森が散在しています。長かった羽越本線の旅も、まもなく終わります。日本海に夕陽が没する頃、一日の活動を締めくくるように、D51の牽く貨物が静かに通り過ぎた。女鹿~小砂川(昭和46年8月)

遊佐~吹浦
上野からT君と一緒に、満員の夜行急行「鳥海2号」に揺られて酒田に着き、普通列車に乗り換えて遊佐に着いた。3月とは言え、日本海から吹き付ける風は冷たい。期待した鳥海山の展望は、山頂が隠れてしまったものの、裾の広い山麓が続いているのがよく見える。改めて、東北の奥深くまで来たことが実感された。
遊佐から少し吹浦寄りに歩くと、人家も途絶えて、右手には鳥海山が望めるようになる。C57 181〔酒〕の牽く荷物列車2048レが、ロッドの回転するカシャカシャと言う音だけを残して、雪原を滑るようにして過ぎ去って行った。(以下すべて昭和46年3月)。
複線区間で上下の旅客列車がすれ違った。2両の煙で一瞬、世界が真っ白に変わった。左:830レ D51  右:827レ D51 570〔秋〕
勇壮な煙を吐いて驀進する。553レ D51 909〔秋〕
D51 370〔秋〕の牽く、こちら上りの貨物列車、複線区間だから貨物もよく通る。
山麓のカーブを行くD51 907〔酒〕の牽く上り貨物。D51のキャブには扉がないため、寒冷地では防風幕で覆うことがある。それが風であおられて広がっている。大阪発青森行き「きたぐに」もDD51に牽かれて定時で通過した。
遊佐に到着した835レ D51 932〔酒〕

女鹿~小砂川~上浜
羽越本線が再び海岸沿いを走るのが小砂川の前後の区間だ。ただ、海食崖の上を走るので、笹川流れのような海岸沿いではなく、海からは少し高さがある。そこで、トップの写真のように、山側の崖に必死になってよじ登り、日本海に落ちる夕陽のなかを行く列車のシルエット狙いに変更した。
小砂川に到着した821レ C57 103〔新〕 冬期のC57は火の粉止めもなく、スノウプロウ効果もあって、たくましい一面を見せる(昭和46年3月)
小砂川から上浜方の風景、夏草に覆われた切り通しを行く。このD51 791〔大〕は一年前に、高島線の電化記念で、東京駅から記念列車を牽いて横浜港まで走った蒸機として名高い。そのあと新鶴見区から大館区に転属した。大館のカマは、奥羽本線のみの運用かと思ったが、羽越本線にも入線していたようだ(昭和46年8月)。
豊かに実った稲田のなかを行く692レ D51(昭和46年8月)
この場所は、最近の撮影でもよく見掛ける地点だ。855レ D511099〔酒〕 もう記憶には残っていないが、改めて地図を見ると、案の定、真横に国道7号が走っている。そう、今で言う、有名撮影地というのは、イコール クルマで行ける撮影地なのだ(昭和46年8月)。夕陽ギラリの838レを女鹿~小砂川でとらえる。牽引のD51 725〔秋〕は、よく見るとギースル・エジェクタの煙突であることが判る。ギースルは、北海道の追分区と秋田区のD51数両のみに試験装備された(昭和46年8月)。
小砂川から女鹿方は単線、このため女鹿信号場が昭和37年に設けられた。このように羽越本線は、現在でも単線、複線が入り交じっている。昭和62年に駅に昇格した。893レ D51 907〔酒〕(昭和46年8月)

~終~

 地図を携えて線路端を歩いた日々 -25-」への2件のフィードバック

  1. いつも見ていて感慨深いのが、乗客の多さとそれに合わせて列車本数の多さだ。駅にも活気があるし、今の駅と比べて施設は貧弱だが人間味が感じられる。もう一つ注目しているのが保線の良さだ。どんな支線でも犬走りから線路内は草が一本も生えていない。国鉄の品質管理の良さを痛感する反面、人件費に食われただろう事は理解できる。
    50年の時を経て比較できることではある。

    • 米手さま
      50年を経ての感慨深いコメント、ありがとうございます。確かに、その当時は意識しなくても、現状と比較すると、昔のほうが、はるかに素晴らしかった事柄というのが多々あります。お書きのように、鉄道を取り巻く車輌・施設・インフラの整備の良さもそのひとつだと痛感します。決して豊かではなかったけれど、鉄道に携わる人々の、ひたむきさ、真面目さが伝わってきます。

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