本の紹介

この度、トンボ出版(大阪市中央区森ノ宮中央2-3-1)より「阪神国道電車」(神戸鉄道大好き会)編著が発行された。阪神間は昔から国鉄、阪急、阪神の高速列車が熾烈な競争を繰り広げてきたことで有名であるが、国道電車となるとその存在すら知られておらず、地味な存在であったといえよう。ところが、今回の発行されたこの本は高速列車に見られない路面電車特有の懐かしい風景が随所に展開されており、心を癒してくれる。地味だと失礼なことを申し上げたが、金魚鉢といわれた超大窓の電車は有名であり、この本の主役でもある。

この本の発行にあたり、当会の運営に精力的に活動されている総本家青信号特派員さんが編集を担当された。総本家さんはこれまでも数多くの鉄道書籍の発行に携われ、編集は御手の物であるが、この本でも数々の秀作を発表されている。また、デジタル元祖青信号に山陽電車、大井川鉄道、東北の蒸機、加太越え等の投稿でご活躍のTsurukameさんが国道電車の沿線育ちということもあり、この本の充実により寄与している。

内容は国道電車の歴史、路線図、車両紹介、全停留所の標識と国道線・甲子園線・北大阪線をメインに、阪神本線の支線である武庫川線・尼崎海岸線まで豊富な写真で網羅されている。大都市間の路面電車であったため、桜や菜の花畑、雪景色等所謂自然的な風景写真はないが、六甲山系、芦屋川・夙川界隈の洒落たムード、酒蔵、神社の鳥居、球児あこがれの地甲子園球場、松並木と武庫大橋、尼崎や大阪等の工場群、生活のにおいのする商店街等々、それに阪急神戸線・今津線、阪神本線、国鉄尼崎港線等との出会い、今風にいうとツーショット等独特のシーンが魅力である。加えて雨の夜景、夕景、女子学生、おばちゃん、おっさん等が出てくるし、一部新旧対比写真もある。とにかく見所多く、見て楽しい。また、途中には適宜沿線在住の神戸鉄道大好き会の皆さんの思い出話が挿入されている。西宮戎神社前では毎年本戎の前後に原健三郎元衆議院議長が奉納演説をしていたとか、阪神タイガース虎風荘で素振りをする選手に声をかけたら、掛布雅之選手であったとか、地元ならではの話が面白い。中でもTsurukameさんは超ベテランの部類に属するのか1945年の神戸大空襲の焼夷弾で自宅が全焼されたこと、近くには野坂昭如氏が住んでおられたことなどを披露されている。高齢者の方はご存じの阪神パークレオポンの話も懐かしい。

本の後半部は国道電車廃止直前の写真レポートや79号保存活動で締めくくられている。最近、書店に行くとこれでもかこれでもかと新しい鉄道書籍やビデオが山積みされているが、懐かしい昭和の車両や風景は一服の清涼剤である。若い人にも、今に続く一昔前のを偲ぶことができるこの一冊である。是非、書店に足を運んでいただきたい。

s-国道表

 

s-国道裏

s-国道カラー1s-国道カラー2

 

 

本の紹介」への8件のフィードバック

  1. 準特急さんへ

     「本の紹介」記事をありがとうございました。本の編集者・総本家青信号特派員さんも、別件での小生へのメールの際、喜んでおられました。小生は特派員さんからお声掛けを頂き若干の写真と思い出話を提供させて頂いたに過ぎません。

     準特急さんにとっては、幼少の頃から生活圏内であっただけに懐かしい内容でしょう。小生も同様です。また、準特急さんが「レール82号」で武庫川特集を投稿されたのも、小生が2011年12月に当デジタル青信号で「阪神電鉄国道線」を投稿した時の記事とも少し関係しています。戦争中の思い出話などは、デジ青記事から発展させて貰いました。

     小生の父親は現電力会社各社の前身である日本発送電・尼崎東発電所勤務でした。阪神出屋敷駅から出ていた高洲線で通っていました。小生も休日に、連れらて発電所裏の堤防からハゼ釣りをよくしたものです。ですから懐かしい高洲線の写真に出会い感激でした。

     一方戦時中や戦後のジェーン台風の時には国道線は、それはそれは大変でした。今でもその時の事ははっきりと目に浮かびます。

     多くに人々に親しまれた電車だけに、誰もが、今一冊の本に纏められた姿を、懐かしく感じながらページを繰っている事と思います。小生の知人の話題にもよく出ます。そんな知人に進呈をと、何冊も購入しました。

  2. 準特急さま
    お褒めの言葉を頂戴し、本当にありがとうございます。写真も文章も、よく内容を見ておられることに敬服いたしました。書いておられますように、沿線には、目玉となるような風景はありませんが、いかにも阪神間らしい、街並みや歴史を感じさせるところが多くありました。当時の雰囲気や、人々の営みを、本から感じていただければ、こんな嬉しいことはありません。

  3. Tsurukameさま
    コメント、ありがとうございました。Tsurukameさまから頂きました、貴重な時代の証言や、私など決して撮ることの出来なかった写真など、ご協力をいただき、ますますこの本の価値を高めていただきました。改めて感謝申し上げます。「レイル」の武庫川でもそうでしたが、地元でのきっちりた記録を続けられていること、敬意を表します。
    出屋敷から高洲まで、ひと駅だけの尼崎海岸線の思い出も拝見しました。一緒に編集を進めたTさんも出屋敷の生まれで、昔の阪神間随一の賑わいや、地盤沈下のこと、ニッパツのお化け煙突のことも聞かせてもらいました。

    • 総本家青信号特派員様
      お礼はこちらの方が申さねばなりません。これまでもたくさんの機会に特派員さんにお声掛けを頂き、断片的な写真を提供するだけでした。そして立派に出来上がった本をご送付いただきました。お蔭様で20冊近いキャンブックスを始め、書棚の鉄道関係書籍の内の多くがこうした本です。

       話が前後しますが、乙訓の老人様には、京阪電車関連、準特急様には武庫川関連と、同好会諸氏の計らいで写真を掲載いただき、完成本が新たに本棚に加わるということが幾度もありました。こちらは、企画するでもなく、ただ参加させて頂いているにすぎませんのに。

       準特急さんからは、加太の本を作るように進められているのですが、なかなかできず、相変わらずそのままです。すみません準特急様。

  4. Tsurukame様、総本家青信号特派員様
    戦前からの沿線育ちTsurukameさんならではの貴重な証言や記録、総本家さんの何とも言えない雰囲気のある写真、神戸鉄道大好き会の皆さんやリーダーの方々もお二方と共演されてよかったと思われていると思います。この本を手に取って見てみるとその良さがわかると思います。今後のお二方のますますのご活躍を祈っております。

  5. Tsurukameさま
    御礼を頂戴し、ありがとうございます。こちらの勝手なお願い事に、快く応じていただける、Tsurukameさま、準特急さまには、感謝申し上げます。加太の企画もぜひ実現してください。お手伝いできることがあれば、何なりとお聞かせください。

  6. 準特急さま
    何度もコメントを頂戴し、ありがとうございます。今回、Tsurukameさんの国道線の写真を知る契機となったのも、このデジ青でした。以前にも、準特急様はじめ、投稿原稿が、別の媒体に掲載されることも多く、デジ青の価値を感じています。つい先ごろも、名古屋から来られた著名な方とご一緒する機会があり、その方もデジ青は、毎日巡回されているそうです。特定の形にとらわれず、投稿者の好みや個性が感じられる多様な内容が、デジ青の魅力だと言っておられました。

  7. 総本家青信号特派員様
    デジ青を見ておられる方が相当な数にのぼるということはアクセス件数でわかるそうですが、鉄道関連の出版社の方、趣味の世界で昔からの著名な方々、その他全国の鉄道の好きな方々がいつもよく見ておられ、時にはコメントもいただいております。内容がバラエティに富み、好みや個性が感じられるとのお褒めの言葉は嬉しく思います。願わくばもう少し投稿者が増えるともっと充実すると思います。写真1枚でもいろいろなstoryがあると思います。それに以前投稿されていながら現在休眠中の方が再び目覚めてくれるといいのですが。

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