【老いて益々意気軒昂】
湯口徹兄の新著「日本の内燃動車」が先日上梓された。これで何冊目なのだろうか?
発行者も古くはエリエイ社から始まり、今回は成山堂書店である。同書店は「陸海空の交通がよくわかるシリーズ・交通ブックス」を刊行しているが、その執筆者はその筋の玄人である。
今回、湯口兄は趣味者から「その筋の専門家」に認定されたことになる。
それはそうだろう、2005年大作「内燃動車発達史」、2006年「戦後生まれの私鉄機械式気動車」に始まり、2008年「日本の蒸気動車」、2009年「石油発動機関車」をネコ・パブリッシング社から上梓され、日本全国に「湯口徹あり」と鉄道趣味界に銘記されるようになった。
彼は学生時代から気動車の研究家であった。私が気付いたのは京都鉄道趣味同好会会誌【急電】誌上で、高校2年の時であった。投稿内容からして彼は社会人だと思っていた。
1957年同志社進学の時、経済学部新入生として彼の名があり実は驚いたのである。当時、師事していた奥野利夫さんからも「湯口徹さんが君とおんなじとこへ入ったぞ」、と言われたのを今も覚えている。翌年5月、DRFC旗揚げに際し駆けつけてくれ、羽村兄から紹介され付き合いが始まった。
今回の著書を紐解いてみよう。彼ならではと思う箇所を幾つか探してみる。先ず1頁、第1章・黎明期のわが国内燃動車、「1内燃動車の定義」以下を熟読してみた。彼は若い頃から趣味者として追い求める内容を整理していたのである。趣味者は鉄道の一部分としての車両を対象とする事が多いが、その範囲を定義づけた上で調査活動に入る人は少ないようだ。
私が彼を知って、先ずこれに気付いた。一種の頑固者である。そして調査を始めると徹底的に追いかける。一次資料として鉄道事業者のものを入手するや、それを彼なりの観察記録に基づき裏づけを取っていく。その範囲を広げ、検証を1点に絞ることなく多角的に展開して行くのである。交通博物館の倉庫に続き、国立公文書館での調査を今も続けているのはその証と言えるであろう。
第2章も興味深い話題が多い。私鉄電車ファンの私にとって【架線の下を走る】の項で始めて知った話がある。参宮急行電鉄伊賀線(電化線)で試作貨物用ディ-ゼルカ-を走らせた、と言う話である。電車との併用を目論んだものの、実用化には至らずとなったようだ。第3章から国鉄の話が出て来て、私鉄での実績との対比に興味をそそられる。彼が何時も話題にするDMH17に対する持論が展開され、日本内燃動車発達の壁になったのではないか、と論じられ、広範囲の話題が取り上げられている。
そこでクローバー会諸兄が購読されるに値するものであると信じ、推薦させて頂く。購入は鉄道趣味誌が並んでいる本屋で必ず売っているものではない。発売元は成山(せいざん)堂書店、定価1800円(税別)、直売ありで、問合わせは〒160-8792 新宿区南元町4の51、電話03(3357)5861、FAX 03(3357)5867 である。著名書店に申し込めば送料なしで購入できる。PC検索OKである。
最近ちょっと気になることがある。湯口兄は10年ばかり前から「時間がない、時間がない」と言うようになった。なにかと問えば「後4冊残しておきたい」と言っていた。その中に今回の「日本の内燃動車」は入っていなかった。それが2年前「和久田さんの勧めで……」が今回の上梓となった。
そこで後4冊の内、とても意欲を燃やしていた「軽便鉄道」はどうなったのだろう。それが今回の上梓に化けたのだろうか。
最後は「花巻電鉄」で締めくくると言っている。内輪話をばらすのはどうかと思うが、軽いタッチで昔話をやってくれないかと思っている。学生時代から挑戦していたステーションホテル100泊、達成記念の駅が「やましな」となったが、この地は彼が鉄道趣味者として養分を溜め込んだ思い出の地である筈だ。車で「鉄」やる輩が多い中で、昔はこうやって鉄道を追いかけたものだ、鉄道事業者との付き合い方、礼儀など教えてやってほしいと思うのだが……
50年以上のお付き合いのある乙訓の老人様から湯口様との出会いを紹介いただき、興味深く拝見させていただきました。
実は湯口様が内燃動車や軽便に大変造詣が深いと知ったのは最近のことであります。湯口様のお名前は昭和30年代から存じ上げておりましたが、私は湯口様が趣味誌に発表された狩勝峠、磐梯山麓、山科大カーブ、日向路等々主に蒸機列車の作品に感銘を受けておりました。DRFCの青信号等からも小海線C56に熱心であったように記憶しております。ところが、今振り返ってみますと当時から花巻や伊豆箱根などの電車を含め各地のローカル鉄道を発表されております。九十九里のターンテーブルを動かしている姿は内燃ファンそのものです。ご本人は国鉄の車両や京阪を除く私鉄等はほとんど興味がないように話されることがありますが、そんなことは全くないと思います。デジ青でも軽便、内燃に加え、私の様な蒸機と大手私鉄の上辺しか知らない人間のことも考慮して多くの貴重な写真を提供されております。おじん二人ヨーロッパ軽便も凡人にはできない発表であったと思います。私などはヨーロッパは本線列車と駅前路面電車だけです。「能ある鷹は爪を隠す」といいますがまさにそのような感じがしております。作品は車両研究のための1両1両の記録と風景写真や人物を入れた当時の世相を反映したものとの二刀流がお見事でした。総本家さんのデジ青の鳥栖駅の話に対してもその鳥栖でお生まれの時は猛烈な未熟児であったとコメントされていますが、何の何のその後はすくすく育って背の高いハンサムボーイになられております。先年、その立派な著作に対して賞が授与されましたが、DRFCの宝として今後もますますお元気で活躍されることを祈っております。拙文で失礼しました。