3月17日【57081】で、西村雅幸氏より1000系のその後の経過について報告いただいたが、同社が新製時に作成したパンフレットが手元にあり、それを基に概要を紹介する。
新形車両新造について
当社、上信電鉄は、輸送力増強と旧形式車両の近代化への脱皮の一環として、今度1000形電車を新造することになったが、この新造車は、現在通勤輸送列車増加及びスピードアップ計画に大きな力となるべく、将来充分な性能を発揮出来得る近代化された最新の機器を搭載しました。
そして、現在の旧形式車両の代替車両として、随時増備される予定です。
この車両を新造するにあたり、特に考慮したことは、鉄道車両の使命として、安全、正確、迅速の原則に基づき、これからの大量輸送機関として、より一層の性能の向上、サービスの向上、安全確保を目標とし、未来の鉄道車両構造と致すべく、在来の車両のイメージを大きく変えたスタイルとした、その概要はざん新な先頭形状をもった近代的なスタイル、乗心地の向上をはかった空気バネ付台車、制御性良好な電気指令式空気ブレーキ、操作性の良いワンハンドルマスコンなど最新のデザイン、技術をとり入れたユニークな車両にしました。
1000形車両の概要
(1) デザインの一新
M・M・T・3両固定編成イメージより、正面からのアプローチに軽快感を与える様に正面の屋根をフラットに近くし、前妻に傾斜を付けて正面の上下角に丸味をおびさせローシルエット(横長)のイメージを与える様にバンパーを前妻下部に設け、衝撃力をも吸収させ得る今迄にない構造としました。
正面の一枚窓も従来のものより更に視野を広くし、正面窓と上部表示板は一体感を持たせる為に同一表面となる様にしてある、サイドアウトラインを強く印象付け又フロントビューの圧迫感を取り除いています。
カラーリングは、全体をホワイトにしストライプ(帯)にはオレンジイエローを用いストライプを生かす為にブルーの子持ちラインを加えてスピード感を与えたものとしました。
オレンジイエローの暖色は、はなやかなアクセントとなり上州の風土にマッチするものです。
(2) 車体構造
車体は、鋼体と台枠を普通鋼全溶接構造として充分な強度及び剛性をもたせると共に外板、床板、及び屋根板は、1.6㎜厚の車両用耐候性高張力鋼板を使用し軽量化をはかっております。
客室及び乗務員室の天井板内張りや客室内の各部にメラニン樹脂積層軽合金板を使用し、無塗装化を進めメンテナンスフリー化を計りました。
側窓は、上下2枚の上昇式ユニット窓で耐食性アルミ合金製窓枠で、妻窓及び仕切窓は最大限に広くし、室内の見透しを良くし貫通路幅1200㎜両引戸と共に3両編成の車両が1つの室内と感ずる様にイメージ化を計りました。
荷棚及び吊手は人間工学的に考慮し腰掛はロングシートで乗客の疲労を感じさせない形状とし快適な乗心地を与える様充分考慮された構造になっています。
内部色彩は、現代趣好にマッチした新しいデザインを採用しソフトな落着いた雰囲気を描出しています。
(3) 運転室機構
従来の加速用ハンドルと、ブレーキハンドルとを1本のハンドルにまとめ前後操作形とし、ハンドルにはデットマン装置が内臓されています。
操作は、手前に引いて力行、前方に押してブレーキが作用します。
これにより運転席は、横形マスコンデスク形でユニット化とされ、その前面に計器、表示灯、スイッチ等を配置操作監視が容易になり、運転中の姿勢と操作性を配慮し、特に足まわりに余裕あるスペースを持たせ疲労軽減を計った構造としております。
前面ガラス窓は、車体幅を有効に利用した視野の広い一枚ガラスとし、熱線防曇合わせ強化ガラスで冬季及び多湿時の運転視界の確保を計っています。
(4) 制御装置
100kw直流直巻電動機8台を1組で制御するMM`方式とし、制御装置の集中化を計り、力行時直並列抵抗制御及び弱め界磁制御を行い、また発電ブレーキを高速より有効に利用出来る方式とし、さらに乗客の荷重の変動にかかわらず一定の加減速が得られる、応荷重装置付としました。
なお、必要に応じて高い加速度が得られるように高加速スイッチも設けております。
制御機構には、無接点装置、リードリレー、MFリレーの採用と新形主抵抗器等の採用により性能及び信頼性の向上と共に保守のメンテナンスフリー化を計っております。
(5) 主電動機
加速はもとより減速の為の発電ブレーキを、高速90㎞/hより5㎞/hまで作用させる為の十分な容量を持たせており、電動機は、無溶剤エポキシによる一体固化方式、整流子ライザのTIG溶接、ガラスバインドの採用等信頼性の向上を計り軸受部は密封構造とし、長期間無給油、無点検といたしました。
(6) 電気指令式空気ブレーキの採用
空気ブレーキも従来の自動ブレーキ方式に対し、制御応答性の良い電気指令式(HRD-1)空気ブレーキとして性能の向上を計り保安度を高めると共にブレーキ制御器もユニット化しメンテナンスフリー化を計りました。
このブレーキ装置は、7段の制御段を持ち、空気を用いず電気指令により各車の電磁弁を直接作動させブレーキシリンダーに圧力空気を送る全電気指令式電磁直通ブレーキです。
その他保安ブレーキとし直通予備ブレーキを設備し、さらに手ブレーキ付となっております。
(7) 台車
本台車は、高速度通勤電車用台車として十分な性能を発揮し得るように設計製作されたもので車体支持は3点支持方式で両サイドに上下左右動揺に特性の優れたスミライド空気バネを使用し乗客の乗心地を改善しました。
台車枠は鋼板溶接製で構造が簡単で充分な剛性を有し、かつ重量軽減をはかり保守点検を容易にしたものであります。
軸受は、ペデスタル方式120φ円筒コロ軸受、ブレーキは抱合式です。
(8) 戸閉装置
誤操作、又は引通し線の混触などで走行中にドアーが開くのを防止する戸閉保安装置を設けており、両開き扉はS.T.機構で冬期の戸閉取扱いを考慮し半自動扱いの出来る装置を設置いたしました。
(9) 換気装置
乗客サービスの一環として梅雨時の車内の熱気を解消するため、屋根上に強制排気扇を設けました。
これにより梅雨時はもとより夏季に於いても押込通風器と共に、新鮮なる外気の導入が容易になり快適な車内環境とすることが出来ます。
(10) その他主要概要
イ) 放送装置 放送にチャイムを入れ乗客サービスの向上。
ロ) 電子警報装置 オルゴール警笛を採用しイメージチェンジ化。
ハ) 空転検出器 空転による電動機等の故障防止。
ニ) 走行距離計 保守事務作業の近代化。
ホ) 電動発電機切換スイッチ
MG2台運転とし故障の場合切り換て運転の確保をはかる。
ヘ) ブレーキ指令読換装置
故障の為の回送に支障ない方法で在来の車両と併結出来る装置。
ト) 電熱器 反射式電熱器とし容量の増大を致しました。
チ) 連結器 中間の連結面に棒形永久連結器を採用し保守の軽減と前後動揺による不快感をなくしました。
(11) 車両の製作担当
車体及び艤装 株式会社新潟鐵工所
台車 住友金属工業株式会社
電機品 東洋電機製造株式会社
ブレーキ 日本エヤーブレーキ株式会社
1000形諸元表
車種
全鋼製二軸ボギー制御電動客車、全鋼製二軸ボギー中間電動客車、全鋼製二軸ボギー制御客車
形式
(←下仁田) クモハ1000 モハ1200 クハ1300
自重
Mc1 37トン M2 36トン Tc 28トン
定員
Mc1 152人(座席66人) M2 162人(座席72人) Tc 152人(座席66人)
最大寸法
Mc1・M2 20000×2869×4140 Tc 20000×2869×3936.5
運転性能
最高速度 90km/h 加速度 2.4km/h/s (0~200%乗車迄一定)
減速度 常用 3.5km/h/s 非常 4.5km/h/s (0~200%乗車迄一定)
集電装置
PT4213-A-M形 電磁カギ派外しバネ上昇空気下降式Mc1・M2各1台
台車
鋼板溶接構造空気バネ付台車 FS395型(Mc1・M2) FS095型(Tc)
駆動装置
中空軸電動機式平行カルダン、タワミ板継手式ハスパ歯車1段減速85/14=6.07
主電動機
TDK806/7-H型 台車装荷、直流直巻補極付自己通風丸形
100kw 375V 300A 1800rpm 8台
制御装置
ACDF-H8100-769B 電動カム軸1回転多段式、直並列・弱界磁制御
電空併用、発電ブレーキ応荷重制御付
ワンハンドル力行ブレーキ制御主幹制御器
電動発電機
TDK362-A直流複巻電動機 出力5kVA・100V・25A・2φ M2車2台
空気ブレーキ装置
HRD-1型 応荷重装置付、全電気指令式電磁直通ブレーキ
直通予備ブレーキ、手ブレーキ付
電動空気圧縮機
CM2015T-HB2000CB型 2段圧縮・単動・釣合対向形1500V 12KW M2車2台
照明
前照灯 DC100V 150W/50W シールドビーム2灯
室内灯 AC100V 40W蛍光灯 15灯(Mc1・Tc) 16灯(M2)
予備灯 DC100V 15W 4灯
尾灯 DC100V 40W 2灯
戸閉装置
TKT4-C-M型 電磁空気式・自動戸閉機・両開きST機構
戸閉保安装置付 片側3扉
暖房装置
HE62型反射式シーズヒーター 100V750W 15ヶ/両 HS35型 100V750W 15ヶ/3両
排気装置
天井用排気通風装置 DC100V 60Hz 40cmサイクルファン 7個/両 運転室 30cm 1個
放送装置
トランジスター方式 乗務員間連絡装置付 放送チャイム付 分散型放送装置
製造初年
昭和51年
以上
群馬県の一地方私鉄が、大手私鉄に負けない斬新なスタイルの高性能新車を30年以上前に登場させたことは特筆に値すると思ったので、当時の資料から詳細に解説した。
肝心の写真は、平成10年7月23日に高崎車両区撮影しているが、既に3連運用は朝夕のみとなり昼間は文字通り昼寝していたため、パンタグラフが上がっておらず、高崎寄りのクハ1301は障害物のため撮影していない。
6000系/ (H18-9-9) 南高崎~根小屋
後ろの6000系は、昭和56年に新潟鐵工所で新製されたが、乗客の減少から2両編成となった。
正面のスタイルは1000系の流れを汲み1枚窓で、車号は、(←下仁田)クモハ6001+クモハ6002である。
冷房装置は当初から搭載しており、車内は千鳥式にクロスシートを配置し、外観上もクロスシート部分の窓配置が2連ユニットになっていたが、平成7年にオールロングシート化された。
全面広告車になっているが、新製時と変わらないスタイルで活躍している。