北のC62 全記録 〈20〉

昭和46年3月23日 奇跡の遭遇?
北海道へ入って、ちょうど2週間が経ちました。均一周遊券の残りをフル活用して、C62重連に集中します。塩谷で撮った翌日は、上りを小沢、下りを二股で撮ることになりますが、忘れられない撮影、出会いを果たすことになります。倶知安ユースで泊まり、倶知安からひと駅乗って小沢へ向かいます。小沢は、夏に来たことはあるものの雪の時期は初めて、20‰勾配が続くものの、夏は、両側に山が迫って、引きのある撮影ができない線区ですが、雪があれば、自由に撮影地が選択できます。ただ、さすがにこの季節、豪雪地帯ながらも黒々とした道床が見えています。C62重連の魅力のひとつが、“人間に最も近い機械”を実感することだ。その機械を操るのが、二組の機関士・機関助士で、ナッパ服に帽子、ゴーグル、首に巻いた手ぬぐいと完全武装、まさに“男の世界”だった。その一端を表現したいと思い、少し前から編成全体だけでなく、キャブ周りも写すことにして、機関助士も、タブレットの授受でキャブ左に位置することが多く、二人のコンビネーションを公式側から狙うようにしてきた。あとはシチュエーションだが、幸い、雪が降り出し、135mmで狙ってみた。雪の斑点がボケて、にっこり笑ってくれた。“おい、頑張れよ”の励ましなのか、“こんな時に好きやなぁ~”の軽視なのか、それは分からない。とにかく、自分の存在に気が付いてくれたのは事実で、それがたいへん嬉しかった。

上り「ニセコ1号」は小沢に停車し、発車してすぐに20‰に掛かるから、煙は駅チカでも期待できる。すぐの鉄橋を渡った左カーブで通過を待つ。雪はそれほどでも無いが、135mmレンズの圧縮効果もあって、北海道へ来て初めての降雪イメージのC62重連となった。煙もまっすぐに上がる。2号機ばかりだった先頭の補機は、本日は3号機と確認。素早く三脚に据えた6×6判に移って、トドメの一発。先頭のC623にまずキャブ付近を狙う。二人の表情も良かったが、たまたま雪と機関士の顔が重なってしまい撃沈。冒頭の次位C6215を撮ってから、去り行く姿を追い続けた。

小沢から下り122列車にT君と乗った。牽引はD51585、乗車は最後部スハフ3276と手帳に記したあとは、例によって二人とも爆睡してしまった。何気に起きると、列車は駅に滑り込んでいて、駅名を見ると「かみめな」とある。肘掛けを枕にして横になっていたから、窓枠が額縁のようになって、白い世界が広がっている。“ギュギュギューッ”と制動が掛かって、停車したとき、窓の外に、見慣れた二人が見えるではないか。
なっ、なんと山科の人間国宝ご夫婦だったのだ。びっくりして、手を振ると、ニコニコされて、列車に乗り込んで来られた。「我慢できずに来てしまいました」が第一声だった。
これには前段があった。渡道してすぐC62を撮った日のユースで、T君とともに、人間国宝さん宛てに葉書を書いたのだった。おそらく雪のC62重連の素晴らしさを綴ったのだと思うが、別にその後の行動予定までは記すことはなかった。人間国宝さんは、この葉書を読んで、急遽、北海道行きを決意、新幹線・飛行機で駆けつけられたのだった。それにしても偶然なことで、人間国宝さんがホームで待つ位置が数メートル違っただけでも、出会うことはなかったかも知れないが、あとで聞くと「会うかも知れないと思っていました」と、人間国宝さんらしい運命を感じられていたそうだ。
人間国宝さんも、よほど感激されたのだろう、そのあと会うたびに、その時の思い出も聞かせてもらったし、雑誌「国鉄時代」の特集「C62」に執筆された際にも、その時のエピソードを披露されている。山科人間国宝さんご夫妻、T君と一緒に二股まで行き、北側の二股川鉄橋の北にある台地の上に陣取った。春分の日も過ぎて、17時前後の時間帯でも下まで陽が回るようになった。左へ大きくカーブして、編成全体を照らし出した「ニセコ3号」が近づく。

この場所も夏場は熊笹に覆われて、台地から写しても下回りは隠れてしまうが、今は熊笹も雪に埋もれて、キレイに見渡せた。連続シャッターを夢中で切り続ける。

真横に来たところで、6×6も駆使して写し続ける。雪原に半分ギラリの2両の巨体が浮かび上がった。客車を拡大して見ると、乗客の顔に夕陽が当たっているのも分かる。左下に人間国宝、T君、私の影が雪原に伸びている。眼前を通過したあとも、しつこくシャッター。林の向こうでようやく止めた。このあと、4人で二股駅まで戻り、人間国宝さんご夫妻は長万部温泉泊まり、二人は再び小樽方面に戻って夜行トンボ帰りで、翌朝には大沼へ向かうのだった。

 北のC62 全記録 〈20〉」への7件のフィードバック

  1. 総本家青信号特派員様
     重量感、迫力溢れる作品の数々に圧倒されました。
     これらの素晴らしい走行シーンはそれこそ国宝ものですね。
     この重連を運転する機関士と機関助手さん、いい写真ですね。
    先頭機関車と息を合わせて客車を引っ張る。難しく大変な作業だと思います。それも厳寒の中を。機関助手さんは先頭のC62 3の動きと息を合わせるべく真剣に前を確認してはるんでしょうね。年も機関士さんと比べるとお若そう!機関士さんはさすがに若干余裕も感じますが・・・いろんな事を想像させてくれますね。
     次の先頭機関車の運転写真、機関士さんに見事雪が被ってしまいましたね。見事に「あたり!」ですね!?
     撮影が厳冬下で大変なもだったと思います。機関士さん達も「こんな雪の中撮影ご苦労さん!俺らも頑張るよ!」と言っておられるのではないでしょうか?

    • マルーンさま
      コメント、ありがとうございます。当時、線路沿いで撮影して、眼前を蒸機が通り過ぎる時、私は手を挙げて機関士に挨拶するようにしていました。それは“撮影させてもらって、ありがとうございます”の感謝の気持ちでした。すると、向こうもも手を挙げて返礼してくれました。そんなシーンの写真表現が、今回の写真です。このように、当時は、撮影者と運転側との一体感があり、撮影していても、心が和みましたね。いまは、敵対心しかなく、撮影者は全くの嫌われ者になってしまいました。

  2. 総本家青信号特派員様
    C6215、C6216は山陽筋から来たカマで私は函館本線ではついに撮らずじまいでした。小沢の冬は私も思い出がありますが、キャブの二人の機関士、機関助士の姿は見事にとらえられておりますね。二股もまるでデジカメの連射のようですが、夢中で撮ったことがよくわかります。それにしてもよく人間国宝さんにお会いしましたね。

    • コメント、ありがとうございます。糸崎から転属したC6215、16の2機は、昭和45年10月の呉線電化からで、北海道での活躍は、わずか1年でした。わずか一年のために、軽量改造して、遠路はるばる転属させる意味がよく分かりませんでした。今回の渡道では、幸か不幸か、2号機先頭が多く、私も15、16号機の姿を見かけるのは稀でした。連写ですが、当時では、フィルムを巻き上げる→ピントを合わす→カメラを静止させる→シャッターを切る、この動作が必要で、3秒程度は要していました。また同時に構図にも気を配る必要があります。これだけ連写できたのも、やはり速度が今と比べて遅かったことが大きく寄与していたと思いますが、やはり若かったこその連写でした。いまは構図固定で連続シャッターは、デジカメですべてやってくれますが、構図を変えながらの連写は、列車の速度にも追随できず、とてもできません。

  3. 機関士と機関助士が写っている写真に胸が熱くなりました。
    機関士の微笑みにコメントしようとしたら、マルーンさんが同じ気持ちを書かれていました。
    だから重なることをお許しください。
    あの頃はまだ「テッチャン」なる共通言語はなく、我々は日陰者でした。それでも鉄道職員とは同族意識で繋がっていたと信じております。撮影旅行で保線区職員や駅員や機関区員の皆様から歓待されたおぼえのある方は私だけではないはずです。当時のファンには鉄道職員の職場に立ち入るという謙虚さと緊張感がありました。機関区訪問には必ず管轄の管理局へ往復ハガキで撮影許可申請をしたものです。実際、ある機関区では、区長から「我々の仕事を知らせてくださる大切な仲間」と言われ、恥ずかしく思ったものでした。
    写真を見たとき、その言葉を思い出しました。
    機関士は「お!ご苦労様、俺たちも頑張るから気をつけて帰るんだぞ!」と微笑みかけたに違いありません。
    鉄道趣味が世間に認知された現在は、こんな暗黙の交流は望むべくもないでしょう。

    • 米手さんからもコメントを頂戴し、光栄です。ほんとに同感です。あの頃は、鉄道職員、とくに普段は乗客と接することの無い、機関区などの現場の方からは、大事にしてもらいました。私はどちらかと言えば、積極的に声を掛けるほうでは無いのですが、逆に、現場の方から声を掛けてもらい、旅行先で感激したことがよくありました。いま“鉄ちゃん”と呼ばれる人種は、現場からは、邪魔者、嫌われ者以外の何物でもありません。

  4. 文中の山科人間国宝さんとの“奇跡の出会い”については、上掲のように「国鉄時代」にもご本人が書かれています。「同志社大学鉄道同好会」の名も見えて、私よりウンと詳しく書かれています。人間国宝さんに取っても、忘れられない思い出のようです。

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