被災地の鉄道は いま -4-

気仙沼線(2)

震災による津波被害で不通になった気仙沼線柳津~気仙沼間55.3キロは、ミヤコーバスによる振替輸送を行っていたが、JR東日本は、BRT(Bus Rapid Transit バス高速輸送システム)による運行準備を進め、陸前階上~最知間で専用道が完成したため、振替輸送に替わって列車代行バスの営業を開始した。

BRT専用道の陸前階上~最知間の現状を見ると、国道なら一直線で行けるところを、わざわざ迂回して専用道へ向かっているため、昼間は時間のロスを生じているが、朝の道路混雑時は定時性の維持に役立っているようだ。驚いたのは、バスロケーションシステムも使用した定時運転ぶりで、BRT専用道の途中に離合所が設けられているが、ここでピッタリ上下のバスが離合した。今年中には、専用道区間も延長が予定されているので、文字どおり高速・定時性が広範囲に維持されるのを期待したい。

気仙沼線の復旧については、地元とJR東日本との協議が進められ、最新のJR側からの提案では、これまで、BRTが最終的な復旧と捉えられるようになっていたが、「安全が確保された鉄道の復旧」に修正された。これは、従来の線路を放棄して、高台に新線を敷設することを意味する。しかし、通常の復旧費用をはるかに超える経費が必要で、JR東日本のみによる復旧費用の捻出は難しく,国による財政支援が必要としている。

しかし、BRTによる仮復旧は、鉄道トンネルも専用道路化して、柳津~気仙沼の全区間で計画されている。全く同区間で鉄道を敷き直すなどの二重投資はあり得ず、鉄道復旧は、机上の空論でしかないように思える。

もともと気仙沼線の使命として、気仙沼~仙台間の都市間輸送、短区間の通学輸送、この二つの需要しかないと言われていた。前者は、震災前、両都市間を結ぶ快速列車も設定され、それなりの乗車率も確保していたようだが、震災後は両都市間の高速バスも増強され、公共輸送を列車に頼る必要性はさらに薄らいでいる。後者の通学輸送でも、短区間の集中輸送なら、バスでも十分に賄えるはずだ。

柳津を出て、2時間10分、寸分の狂いもなく、定時に終点・気仙沼駅にバスは到着した。列車と代行バスで巡った被災地の一日、この目でしっかりと現況を確認し、私はさらに大船渡線、東北本線を乗り継ぎ、盛岡へ向かった。

歌津」バス停に停車。バス停標識は、バスと同じ赤色のカラーになっている。地図と対比すると、この付近に確かに歌津駅があったはずだが、見渡しても、それを示すものは何もなかった。背後の橋脚のみは道路橋。陸前小泉駅付近の現状、河口付近で落橋したままの橋梁の下をくぐる。この高さまで津波が乗り越えたことがわかる。

本吉駅で3分の停車、高台にあったため、この区間では唯一被害を免れた駅で、駅舎も健在。2時間以上の乗車となるので、トイレタイムともなる。▲▲本吉駅構内はレールが取り外されていた。将来のBRT化の準備と思われる。陸前階上~最知間2.1キロが線路跡を利用した専用道路となり、本来のBRTシステムを見ることができる。陸前階上駅は、残った駅舎・ホームを再整備してバス停に転用、ロケーションシステムも待合室に設置された。最知駅は被害が大きかったため鉄道駅・ホームは撤去し、新たに対向式のバス停が設けられた。▲▲被災直後の最知駅(ネットから転載)。中央奥の塔屋が同一であることから、ほぼ定点であることが判る。最知駅に停車中のバス車内、途中から乗ってきた高校生もいたが、車内は閑散。現実、沿線に人家は全く残っていないのだから、乗客が少ないのも無理はない。▲▲BRT専用道の途中の離合所で、反対の上り方面バスと交換。気仙沼の市街地に近づいてきた。市街地はほぼ全滅状況だったが、今はほとんどそれが感じられないほどの復興ぶりだ。中央のイオンも浸水したが、今は盛業中。

定時に終点・気仙沼駅にバスは到着。すぐ転向して、バスは柳津へ向けて再び発車する。気仙沼駅は、高台にあるため、全く被害は無かった。気仙沼の市街地は、起伏が多いため、被害の差が顕著だった。気仙沼から北へ向かう大船渡線は不通のままだ。

被災地の鉄道は いま -3-

石巻線の列車に乗って前谷地に到着した。ここから分岐する気仙沼線は、私にとっては初めての乗車となる。隣のホームに停車中の気仙沼線2975Dに乗る。キハ110の単行列車は11時13分に発車、旧北上川に沿って北上を続け、車窓には肥沃な光景が広がる。5駅分、20分余りの乗車で柳津に到着、列車の運転はここまで、以後は気仙沼まで延々と代行バスの旅となる。

気仙沼線(1)

気仙沼線の前谷地~柳津~志津川~気仙沼間72.8キロのうち、海岸部を走る柳津~気仙沼間55.3キロは、津波で壊滅的な被害を受け今も不通のままである。

同区間は、震災以降、ミヤコーバスによる振替輸送を行っていたが、仮復旧としてBRT(Bus Rapid Transit バス高速輸送システム)による列車代行化の準備を進めていたが、一部区間で専用道が完成したため、沿線学校の2学期開始に合わせ8月20日よりJR東日本による列車代行バスの暫定営業を開始した。列車時代の同区間には、10往復の列車が設定されていたが、代行バスは、ほぼ1時間ヘッド、通しで15往復、気仙沼~本吉間では24往復と増発されている。

振替輸送の際はバス料金が適用されていたが、代行バスの場合はJR運賃となり、手にした乗り放題切符でも通しで乗ることができる。柳津駅前には代行バスが待っていた。整理員に聞くと、気仙沼まで2時間以上掛かるという、いささかうんざりする答えが返ってきた。

前谷地から乗った2975Dの車内、平日の昼間とあって、わずか3名の乗客だった。▲▲前谷地~柳津で気になっていたのは「のの岳」の駅名、昭和43年の開業当時、平仮名を組み合わせた駅名はたいへん珍しかった。調べると、付近に駅名の由来となった箟岳(ののだけ)がある。難解な漢字のため、平仮名にしたようだ。

柳津の手前で、北上川の本流を渡る。川面に青空が反射していた。ここまでは地震の影響など微塵も感じられなかった。乗車20分余りで柳津駅に到着。島式ホームにログハウス風の駅舎、列車はここまでで、駅前に待機する代行バスに乗り換え

柳津駅前に停車する代行バス。バス事業者はJR東日本で、JRバス東北ではない。JR東日本直営のバス事業は初めてのこととなる。営業車両は全部で18両あり、すべて首都圏の中古バスを購入して、塗り替えて使用している。年内の本格運行時に、増発、ハイブリッド車両が予定されているため、中古の導入となったようだ。なお、運行は、ミヤコーバスに委託している。代行バスは柳津を出るとすぐ一般国道45号に入る。原則、鉄道駅に接近した国道上に代行バスの停留所が設けられている。鉄道駅で言えば陸前戸倉から海岸が見えた。建物がいっさい残っていない、荒涼とした風景がずっと車窓に続くことになる。

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