読書感想文:「十五号車の男」黒羽英二著

新聞で読んだ書評に惹かれて図書館から借りてきたのがこの本。著者は早稲田大学出身の方で1931年生まれだから今年で78才と言うことになる。当会会員の有栖川有栖氏と同じく鉄道を使ったミステリーと新聞にあったので意気込んで読んだがミステリーとしてはもう一つだが取り上げている鉄道がユニーク、というよりマニアックである。たまたま我が家へ立ち寄った乙訓の長老や今年より大作家先生になる予定のF先生にもご覧に入れたが驚いておられた。作品は短編集である。ではご紹介する。なお、黒羽氏は自分で廃線跡探検趣味だと書いているとおりかなりマニアックで私は知らないものばかりであるから知っている方が有れば簡単に紹介していただければ幸いである。

「月の光」

江戸川乱歩の代表作「押し絵と旅する男」を彷彿とさせる設定の作品だ。乗り合わせた見知らぬ男が語る妖しい思い出話だが場所が「C県の炭と醤油で有名なN町からK浜の漁港A町まで全長39.2kmのレール幅60cmのN軽便鉄道」機関車は「1号機関車より古く、S鉄道が購入し巡り巡ってこのN鉄道へ来たもの」だそうである。さてこの鉄道はどこだろうか?この機関車は?

「十五号車の男」

平塚から横浜までの通勤電車内での席争いの話。つまらないので略。

「幽霊軽便鉄道」

主人公は廃線跡探検趣味の高校教師。ホンダライフに乗って旅に出る。回った廃線跡が出ている。曰く、東野鉄道、昭和11年廃止の塩原電車、沼尻鉄道、昭和46年に廃止の福島電鉄、高畠鉄道、新戸軌道、磐城炭坑軌道、磐城海岸軌道、好間軌道だそうな。本当にあるのか想像のものなのか分からない。舞台は好間軌道の神野木近くの老津温泉で幽霊に会うというもの。

「カンダンケルボヘ」

主人公の父親の思い出を探しにシンガポールへ行き、戦争中に昭南島、昭南市と言われたシンガポールを歩き回る話。略

「古い電車」

一人暮らしの老人が廃墟となった遊園地に残っている古い電車、子供の頃乗った思い出と現実の間を行きつ戻りつしながら独り語りする。「不動尊から宗吾霊堂5.1kmを20分かかって走った成宗電気軌道の電車で、1372mm軌間・下すぼまりのセピア色、ダブルルーフ、八つ窓、鉄製丸ハンドルブレーキ、オープンデッキ、定員客席16名、・・・」とある。

「母里」

もりと読むらしい。これを聞いてどこの廃線跡かと言うことが分かるのは少ないのではないか。広瀬鉄道跡を調べていて見つけたオハグロトンボに子供の頃の母親の思い出がよみがえる。伯陽電鉄→山陰中央鉄道→法勝寺電鉄を探検していて小学校に保存されている302号車に感激している。阿賀駅から母里までの支線を終点まで歩く。

「子生」

これもこなじとよむらしい。鹿島鉄道の廃止直前に鉾田近くにいる同級生を訪ねていくというもの。その同級生と車で廃線跡を巡るがその線が鹿島軌道。沿線の旭村に子生はある。

「成田」

先ほども出た成宗電気軌道についての思い出。作者自身が乗ったらしくかなり詳しい。今もトンネルが残っているとか。

最後に創作ノートというのがついており、それぞれの鉄道についての歴史と時刻表と路線図が掲載されている。

田口鉄道、谷地軌道、鹿島軌道、法勝寺鉄道、鹿島参宮鉄道、成宗電気軌道(成田電気軌道、成田鉄道)、千葉県営鉄道

本当に実在する鉄道なのか、車両なのかを含めて長老、大兄、大老など諸賢のご解説を待っております。

読書感想文:「十五号車の男」黒羽英二著」への1件のフィードバック

  1. 東海相模高校で、黒羽先生に英語を習っていました。授業の合間に、葉山芳樹のセメント樽の中の手紙であるとか、テネシーウイリアムスの欲望という名の電車などについて、話されていた事が、印象に残っています。

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