被災地の鉄道は いま -1-

先日の青森写真展では、設営・受付のために現地に3日間滞在しましたが、ダイレクトに行って帰って来るだけでは、鉄道ファンの名が廃ります。青森へ駆けつけた各会員も思い思いに寄り道したようです。私の場合は、被災地の鉄道の乗車に一日を当てました。これまで被災地を訪れることは控えてきましたが、大震災から一年半が経過し、もう邪魔にもならないだろうと考え、現地の鉄道・代行バスを実体験することにしました。

10月9日、早朝の仙台から乗車が始まります。

仙石線

5時30分、新宿から乗ったJRバス東北の夜行バスが、早着も延着もなく、ピッタリ仙台駅東口に着いた。駅でもらった代行バスの時刻表をもとに、今日一日の乗車経路を再検討すると、代行バスの連絡が意外にうまく行くことが判明した。    早朝の仙台駅、震災の傷跡など微塵も感じられなかった

仙台(仙石線)→松島海岸(代行バス)→矢本(仙石線)→石巻(石巻線)→渡波(石巻線)→前谷地(気仙沼線)→柳津(代行バス)→気仙沼(大船渡線)→一関(東北本線)→盛岡(宿泊)と約300キロを列車・代行バスで回れる。手にした切符は「秋の乗り放題切符」だから運賃の心配も要らない。

仙石線は、現在、高城町~陸前小野間の11.7キロが震災の影響により不通で、その前後の区間、あおば通(仙台)~高城町、陸前小野~石巻で列車が運行されている。あおば通(仙台)~高城町は、仙台の近郊区間であり、震災前と同数の列車が確保されており、快速列車も運転されている。いっぽう陸前小野~石巻は、震災前の半分程度の列車であり、すべてDC列車(キハ110)となっている。代行バスは、駅員配置駅の松島海岸(高城町のひとつ仙台寄り)~矢本(陸前小野のふたつ石巻寄り)、鉄道営業距離で18.2キロを43分程度で運転している。代行バスの本数は、一日20本で、朝夕は一時間2本、昼間は一時間1本のネットダイヤで、列車との接続はとくに考慮されていないが、たまたま乗った列車とは、うまく接続していた。

仙石線始発のあおば通りまで行って、快速に乗る。仙石線用に改造の205系のうち、5編成の石巻方先頭車はクロス、ロングの両方に使えるデュアルシート車で、ここでは“2WAYシート”の愛称が与えられている。▲▲快速は高城町までだが、代行バス乗り場のある一つ手前の松島海岸で下車、乗車列車は、石巻出身の石ノ森章太郎のキャラクターラッピング車。

代行バスに乗ってしばらくは、松島海岸が続くが、陸前大塚付近から津波の被災区間となる。辛うじて残った家は1階部分が壊滅 ▲▲野蒜駅舎は改築されて、まだ真新しい駅舎だったが、被害を受けてベニヤ張り

不通区間のなかでは最も津波の被害の大きかった野蒜駅、まだ架線柱は傾いたまま

石巻方の代行バスの接続駅となる矢本。朝ラッシュ時、代行バスへ向かう乗客 ▲▲朝の代行バスは、3台続行で次つぎ発車、バスは近隣のバス会社から総動員している。中心はミヤコーバスだが、乗ったのは日本三景交通という貸切専業のバスだった

代行バスをはさみ仙台~石巻間を乗車すると、接続がうまく行っても2時間程度掛かってしまう。震災前は1時間20分程度であり、とくにラッシュ時のダメージは大きい。そこで、仙台~石巻間を東北本線・小牛田・石巻線経由で結ぶ臨時直通快速を朝夕に各1往復を運転している。この列車は途中ノンストップで小牛田にも停車しないため、1時間05分で、震災前より逆に短時間で走っており好評のようだ。

矢本駅に停車する石巻行き7723D列車、石巻方の営業区間は陸前小野~石巻間だが、代行バスの接続が矢本のため、矢本始発の列車が多い

不通区間の中では、とくに野蒜付近の津波被害が大きかった。震災当日、野蒜で交換直後の上下列車が行方不明になり、うち1本が津波で流された。地元自治体からは、高台への線路移設の要望も上がっており、現在、復旧工事は全く着手されていない。

ところが、青森からの帰宅後に、JR東日本仙台支社から、東北本線と仙石線を接続する計画が発表された。両線が近接している塩釜~松島間(東北本線)と松島海岸~高城町間(仙石線)を接続し、約400メートルの路線を新設するというもの。工事は、不通になっている仙石線の高城町~陸前小野間の復旧工事と並行して行い、2015年中の全線復旧にあわせて使用を開始とアナウンスされている。完成すると、東北本線と仙石線を経由した仙台~石巻間の直通列車が実現する。震災前より、さらに10分程度短縮する見込みである。東北本線が交流、仙石線が直流のため、気動車を使用する。出自の違いから、たまたま並行していた両線が有機的に結びつく訳だ。

8時9分、石巻に到着、かつては仙石線石巻駅と石巻線石巻駅は別にあって、乗り換えの際に戸惑ったものだが、今は統合されている(写真右)。秋の青空もと、駅前にバスがポツンと一台止まっている。左のピンク色の建物は廃業したさくら野百貨店の建物で、1階にスーパー、2階以上は石巻市役所として使っている。一見、平和そうに見えるが、震災時、駅前も1階部分が津波浸水にあったという