小生は社会科見学で工事用軌道のトンネルを見た記憶があります。しかし天ヶ瀬ダムではなく、何処だったのか思い出せず、悶々とした日を送っていました。
先日、KBS京都放送で南山城村の話題が放映され、正に覚えていた情景の写真に出逢いました。
それは木津川水系の高山ダムの工事用軌道でした。
このトンネルは名張川の水をダム工事中に迂回させるための仮設用の水路として掘削されたとのことです。
(業界用語で『仮トン』と言うらしいです)
南山城村の村おこしの一環として、ダム湖に沈んだ旧村の写真と共に展示されていました。(追記:展示は2018年9月末で終了しています)
JR関西本線の月ヶ瀬口駅の近く、道の駅に展示されていました。そこで展示を主催されている方に連絡を取り、工事関係写真の『デジ青』への掲載許諾を頂きましたので、ここに報告します。
写真上部のケーブルが、クレーン用のケーブルです。
高山ダムは1958年(昭和33年)より実施計画の調査に入りました。
しかし途中、紆余曲折を経て1969年(昭和44年)にようやく完成しました。
線路は川の水際に敷設されています。
しかし次の写真は、上の写真より標高が高い部分の様です。吊橋の写り具合を参照。
線路は何か所か設置されたのでしょうか?
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国土地理院の航空写真の中に、1967年撮影の物を見つけました。正にダム建設工事が、たけなわな時期です。
現在の地図と比較すると、水没の状況がよく分かります。
現場写真に加筆しました。黄色い曲線が仮設水路用のトンネルです。
よって青色が軌道跡になります。赤矢印が撮影の方向です。この航空写真が撮られた時点では既に冒頭写真の軌道は撤去され、水没しています。
この写真には吊橋も写り込んでいますが、工事に伴い架けられたものです。
ダムの左下には岩石の採集場が見えます。山体を崩し、大きな岩塊はその場で破砕し、長いベルトコンベアでダム右手のコンクリート製造プラントへ送り込みます。
なお工事用の吊橋は人道の下にコンベアを抱く二層構造となっています。更に二次破砕を行い、砂と砂利3種類の骨材を作ります。
骨材貯留場の下にはコンベアが4本走っており、骨材とセメントがバッチャープラントで規定量混合されコンクリートになります。
【補足】『バッチャー』と言うのはコンクリートの製造をバッチ処理(ひと区切毎に材料を混合)しているからで、バケット・チャージャーの略とか、材料を「バッチャー」と放り込むからでは、ありません。念のため。
それを打設用バケットに入れて電気機関車でダムサイトまで運び、ケーブルクレーンで巻き上げ所定の場所まで移送し、コンクリートを打設します。
その為の電源は遠方の変電所から新たに鉄塔を建設して受電し、ケーブルクレーンに 410KW、バケット牽引のEL用に 240KWが割り当てられています。
工事が終われば、ここで水力発電した電気の送電用の鉄塔となる訳です。骨材用に削った山肌は貯水湖の容量拡大に寄与します。いかにも合理的な建設システム(仕組み)だと感心・納得しました。
なお牽引用ELの種類とか給電方法(架線 or ケーブル or 第三軌条)は、分かりません。更に謎が増えました。(苦笑)
現在でもケーブルクレーンの走行路が残っています。廃線跡では無いのですが、鉄物の遺構ではあります。
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近畿地方の河川工事は『淀川水系改訂基本計画』が策定され、各所で治水対策が行われた様です。なお宇治川水系の工事用軌道は『おとぎ電車』として名を馳せ、デジ青にも数回、投稿されています。
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その他の河川の工事用軌道
1970年に伯備線の布原へ撮影に行く道すがら、高梁川の護岸改修工事で工事用軌道を見かけました。
当時は特別な感情も抱かず、単に車窓風景の一環として撮影したものです。
途中下車してこの工事現場へ赴く時間も有ったのに、今から思えば惜しいことをしました。 (苦笑:毎度こればっかり:大笑い)
最後に、これは一体、何でしょう?
識者の方の、ご説明に期待します。
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鉄鈍爺さま
面白いレポートを楽しませて頂きました。工事用軌道とはいえトロッコと同じで立派な鉄道です。特に最初の写真のレールの曲がり方がとんでもなく素晴らしいですね。目をむきました。たとえ模型でも見かけないくらいの曲がり方です。仁宇布のトロッコ王国の折り返しループで途中エンコさせた者としては、このカーブでは随分走行抵抗がきつかったろうと推測します。
1900生さん、コメントありがとうございます。
きっとタイヤが厚めなのでしょう。 (^^;)
鉄鈍爺様
高山ダムの機関車2両が気になり、岡本憲之氏著「加藤製作所機関車図鑑」「ニチユ機関車図鑑」を調べましたが、該当機らしきものが見当たりません。協三工業やその他のメーカーでしょうか?高梁川はニチユのように思えます。この分野の専門家からのコメントお願いします。
西村雅幸さん、コメントありがとうございます。
高山ダムの方は車高が低い鉱山型と言うか、建設会社のロゴが入っているので隧道工事専用機なのかもしれません。
高山ダムの機関車2両は、“UDL”という日本車輌の防爆型ディーゼル機関車だと思います。
、“UDL”は“Underground Diesel Locomotive”のことで、トンネル工事、下水道工事などの多用されたベストセラー機関車です。
乙訓のご老人の甥御様
日車のベストセラーとは知りませんでした。コメントありがとうございました。
乙訓のご老人の甥御さん
メーカーの特定、ありがとうございます。
諸氏のご協力で記事の内容が深まるのも、デジ青ならでの効果と感謝しています。
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この際、ダム工事の仕組みの話を少し増補しました。そして更なる鉄路の謎も出てきました。