備後備中に消えた鉄道を訪ねて その3 ~もう少し井笠 野上式弾機装置でお付き合いを~

 2カ月余りのご無沙汰です。前回の投稿が昨年の12月12日であるから間もなく2カ月になる。いよいよ笠岡から鞆鉄道の資料があるかもしれない田尻民俗資料館へと話は進むはずであったが、もう少しだけ井笠でお付き合いを

 湯口先輩のコメントで、ホハ1の台車に野上式弾機装置(弾機とはバネのこと)が組み込まれたものとわかった。この野上式弾機台車については「鉄道史料109号、121号」に湯口先輩が詳しく書かれている。これについては私も興味があるので、どんなものか少し考えてみたい。

特許番号がなかなかわからなかったが、やっとわかり4種類の野上式弾機装置の特許明細書が手に入った。これを中心に考えてみたいと思う。今回は新山の井笠鉄道記念館にあったホハ1の台車に取り付けられた「二号型」と呼ばれている弾機装置から考えてみることにする。

この「二号型」弾機装置は明細書によると次の二点が特許となっている。

① 弾機の収縮作用を増大させるために特殊構造の中継座金で弾機を上下二層に配置する。

② 上下二層の各弾機には直径、高さの異なる2個の円筒型弾機(あるいは一種の円錐型弾機)を用いて荷重の多少に従って弾機の強さを異なるようにする。

 まず、①について考えてみる。明細書には通常の1個の弾機と比較して、中継座金を使用した上下二層配置であればタワミの量は約1.5倍になると書かれている。これがこの弾機装置の特色であるとなっている。この理由について計算式を用いて説明されていが、計算式のところはわかりにくいので改めて計算してみると、当然であるが同じ結果となった。

da野上式弾機撓み説明図

 

野上式弾機の最大タワミが普通弾機の約1.5倍になる点についての考察

 上の図のa図から以下の式が成り立つ。

L=m+n+p・N  (1)

また、同じ野上式弾機が最大に撓んだ状態であるc図からは次の式が成り立つ。

2・m=L-n-d・N (2)

(2)式から次の(2-1)式が求められる。

L=2・m+n+d・N (2-1)

(1)式と(2-1)式のそれぞれをm=の式にして巻数N1を求める。

L-n-p・N=(L-n-d・N)/2

上記の式より

=(L-n)/(2・p-d)   (3)

となる。これが野上式弾機での1個の弾機の巻数となる。また普通弾機の巻数N2は

=L/p            (4)

となる。同じように(1)式と(2-1)式のそれぞれをL=の式にすると

m+n+p・N=2・m+n+d・N

上記の式が成り立ち、この式から

m=N・(p-d)   (5)

(5)式が導かれる。この式において(p-d)は弾機のピッチから線径を引いたものであるから、弾機1巻あたりの最大タワミ寸法となる。c図から野上式弾機の最大タワミは⊿1=2mとなる。また、普通弾機の最大タワミ⊿2はN・(p-d)となる。両者のタワミを比較するには比を求めればよい。それが(6)式である。

⊿1/⊿2=(2・N・(p-d))/(N・(p-d))  (6)

さらに(6)式を整理すれば次のようになる。

⊿1/⊿2=2・N/N・     (6-1)

この式から組み付けられている弾機の巻数比の2倍がタワミ比である。実際に特許明細書にかかれている計算条件を代入して計算してみると以下のようになった。

L:8寸 (242.4mm)  d:5/8寸(18.9mm) p=d+d/2=1.5d  n=d/2 と設定して計算すると

=6.14 N=8.52

となり⊿1/⊿2は、

⊿1/⊿2=2×(6.14/8.52)=1.44

となる。この値は特許明細書と同じ値であった。ところで、計算条件でこの比がどのようになるか検討してみた。その結果、タワミ比の変化は弾機のピッチが大きく影響することがわかった。計算してみるとタワミ比が1.5となるピッチと線径の比率がp=1.4dの時であった。明細書では通常弾機の1.5倍になるのがこの特許の特色であると書かれているが、私はそのようには思えない。たとえばp=1.8dの時は通常弾機の1.26倍となるのである。

中継座金を用いた弾機配列は1.5倍だけではない意味があった。

 よく考えてみると野上八重治さんが考えていたことと違うところにこの特許の特色があると思えた。それは何か。野上式弾機の場合は2本の弾機の間に中継座金があり、明細書では上下二層に配置とある。これは2本の弾機を直列に配置したものと同等のものと考える。ところが同じところにあったホワフ1は2本の弾機が並列に配置されている。機械力学の本(在学中のテキスト)を見てみると、直列結合と並列結合のバネ定数について書かれてあって、下の図のようになる。

daバネ配列とバネ定数

 すなわち、同じバネ定数のバネ(弾機)2個を直列結合(配列)にすると結合されたバネ全体のバネ定数は1/2になる。これは感覚的に言うと1本のバネよりフンワカ、フンワカしたものなることである。これを定量的な表現をすると20人乗った1本のバネを使った台車では1cm下がるとすると、野上式弾機のように2本直列配列の台車では2cm下がることになる。バネ定数が小さくなるから通常の約1.5倍のタワミになるようにしたのだろうか。

そして、野上式弾機にはもう一つの特色があった。それは

 これについて特許明細書には次のように書かれてある。

「本弾機装置ニ用ウル弾機ハ高サ及直径ノ異ナルモノヲ内外二於テ二個応用スルカ故二乗客ノ少数ナル場合ニハ二個弾機ノ外部ノミ作用シ多数ナル場合ニハ先ツ外部ノ弾機撓ミヲ内部弾機作用シ始メ内外相俣テ作用スヘシ反之従来使用セラルル普通弾機は一条ノ巻数尠ナキ円筒型ニシテ然カモ乗客定員ノ場合二適当ナル様設計セラレタルモノナレハ定員以下ノ場合ニハ殆ント弾機ハ何等ノ作用ヲ為ササルカ如きキ欠点アリ」

 ここに書かれてある最初の部分を、図を用いて説明すると以下のようになる。

da野上式弾機作用説明図

図1にあるように内側にもう1つの弾機があるが、これは外側の弾機と同じ高さでなく、少し低い。これがポイントで乗客が少ない時は図4でわかるように内側の弾機と座金の間には隙間があるので弾機として作用していない。ところが乗客が多数の時は図の右側のように内側の弾機には隙間がなく作用している。この時のバネ定数は図3での並列配列となるから乗客が少ない時より大きくなる。すなわち、乗客の増減によって2段階にバネ定数が変化するようになっているのである。特許明細書に書かれているように今までの弾機は乗車定員を条件として設計しているから乗客が定員より少ないかまたは多かった場合は乗り心地を改善する弾機としての作用が不十分となる。問題点のとらえ方としてはよいと思うのであるが、当時の技術レベルで製造された野上式弾機台車は十分な乗り心地改善効果はあったのだろうか。

野上八重治さんの夢は・・・

 井笠鉄道記念館にあった野上式弾機も含めて4種類の弾機装置は鉄道車両の乗り心地を改善しようとしたものである。以前「信貴電の不思議」で取り上げた「村田式台車」に取り付けられていた村田利之助氏が特許をとった「車台動揺防止装置」の目的も同じであった。そして現存しているのは野上式弾機の「二号型」と「三号型」のみである。それでは野上八重治さんの夢は実現したのか。それは現在乗っている電車に乗ってみると明らかである。野上八重治さんが考えた乗客の人数によってバネ定数を最適なものに変更できるシステムは空気バネ制御システムの進歩によって可能になった。

補足説明 なぜ乗客の人数によってバネ定数を変える必要があるのか。

 振動するもの(揺れるもの)には振動が大きくなる固有振動数ωがある。つり橋が大きく揺れる歩くテンポが固有振動数であるが、これは以下の式で表すことができる。

ω=√(K/W)

コイルバネは荷重が変わってもバネ定数が同じであるから荷重(乗客人数)が変わると固有振動数は変化する。乗客人数が変わるとせっかく乗り心地の良い固有振動数になるように設計されても変わってしまっては乗り心地が悪くなってしまうかもしれない。そうすると乗客の増減によってバネ定数を変化させる必要がある。現在は空気バネでバネ定数の変化が可能になった。空気バネを使わずにいろいろ試みがあったが満足するものがなかったようである。その一つが「二号型野上式弾機装置」であったと考える。

daバネ上荷重とバネ定数の関係

 やっと野上八重治さんの夢は実現したのである。野上式弾機台車は多くの鉄道で使われることはなかったが、この「二号型」弾機装置の考え方はそんなに的外れなことではないと思う。今では当たり前にできていることが、当たり前にできなかった時代があり、そのような時を経て今があることを忘れてはならない。そんなことを考えさせられる「井笠鉄道記念館」にあった「二号型野上式弾機台車」である。

  さて、他の「野上式弾機」も興味深い。「三号型」弾機装置についても考えてみたいが、そんなことをしていたら鞆へ行けないので、とにかく先に進もうと思う。    つづく

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