翌日は天候芳しからず、しかも雨衣を着ても寒いが、ともかくダグラス駅へ。日曜日だがさして多くない客を乗せ列車は発車。一度乗ってみたかった側戸式(完全コンパートメント)客車を選んだ。そのうち半端でない吹降りに。
左側の客車は側戸式ではない
吹降りの中での側戸式客車となると、忘れがたいシーンがある。日本では1952年公開されたフランス映画「肉体の悪魔」(Le Diable au Corps)で、原作は14歳で人妻と不倫し、17歳でその体験を長編小説に、20歳で死んだ早熟の天才作家レイモンド・ラディゲの文芸作品だからお間違いなく。
25歳のジェラール・フィリップが17歳の高校生を演じ、人妻と列車で逢引。吹降りの中、カッパで身を固めた車掌が検札に来るのだが、側戸式だから車体裾のステップを、窓下の手すりを伝って、なのである。車掌の業務とは命がけだな、と心底感心した記憶が鮮明である。
美しいキャッスルタウン駅
天気はやや回復してキャッスルタウンで離合。機関車、客車駅舎を含めた鉄道全体が溜息が出るほど綺麗で、すべてグレードが統一されている。ここでもジョン・フォードが4回目のアカデミー監督賞を得た「静かなる男」(The Quiet Man)での列車シーン(舞台はアイルランドだが)を思い出す。
我国での「あそBOY」の86が何ともけったいな煙突キャップに似非ダブルルーフ軽量客車を牽引していたりするのと、根本的な差異はどこから来るのだろうか。消防法=万一事故があった際のマスコミの非難なのか。
駅舎の右壁、二つ並んだ海老茶色の扉は便所。隣接した建物内では、ボランティアが黙々と客車の鎧戸を修復していた。建具か指物の大工らしい。線路両側は先回も書いたように必要以上厳重な生垣で、駅構内以外横がちに写真を撮ろうとすると、この程度で我慢しなければならない。
無人自動の踏切もご覧頂いておく。列車が近づくと線路を遮断していた柵が90度回転して道路を閉鎖、列車が行ってしまうと元に戻る。
木製の古いコンテナがフラットカーに積んで保管されていた。これが本土やアイルランドなどと行き来していたのであろうが、懐かしかったのが車側ブレーキ。突放入換時、側面にぶら下がった連結手がこのレバーを踏みながら制動距離を調節し、最後にピンを差し込んでロックする。日本での末年はラチェット式に改良されていたが、2軸貨車そのものを見なくなって何年になるのだろう。
最後に初回入れたマン島イラスト地図が見にくいとのことで、ENCYCROPADIA OF NARROW GUAGE RAILWAY of Great Britain and Ireland から借用した鉄道地図を入れ直しておく。ダグラスから北西へピールへ、その手前セント・ジョンズで分岐しフォックスデイル、東海岸のラムゼイに至る線は同じく軌間3フィートだったが現存しない。
また先回木骨芸術品のところで、グレートウエスタン鉄道R.E.C.ディーゼルカーと書いたのは、A.E.C.の間違いでした。謹んで訂正します。