嵐電で夕景を
ようやく梅雨らしい天気になったが、“晴れ間”シリーズ、まだ続けよう。
夏至を中心にした、この時期、太陽はもっとも北寄りの軌道を通る。太陽の角度を生かして、ほかの季節では得られない写真も撮ってみたいと思う。
少し前、京都の鉄道写真家の重鎮、Kさんと神戸で話をする機会があった。“ワシは、いつも太陽の角度が最適になる季節・時間帯を選んで撮影に行った”と力説されていた。最近のデジカメでは、逆光も苦にならないが、フィルムカメラの時代では、順光で光がキレイに回り込む状態を探したものだ。
この思いを持って、最近よく通っているのが、嵐電(京福電鉄嵐山線)だ。ほぼ、京都の東西を結ぶ嵐電は、通常は南側から陽が射すが、この時期の朝夕に限っては、北側から陽が射し込み、区間によっては、日没直前のギラリや、北側の車体側面の輝きを狙うことがてきる。
おまけに、10分ヘッドで運転しているから、限られた時間帯の微妙な光線下で何度も撮ることができる。
ただ、1990年以降に更新製造された正面二枚窓、額縁スタイルのモボ611系・モボ2001形や、レトロ調電車のモボ21形はどうも好きになれない。しかも、“京紫”の一色化が進行している。やはり、嵐電のオリジナルスタイルの面影をとどめる、モボ101・301形が、ここでは好ましい。しかし、嵐電総数28両のうち、当該車は7両だけで、これらの形式にこだわると遭遇チャンスは意外と巡ってこない。▲この時期の好適例は、車折神社駅だ。真横に車折神社があり、いい雰囲気の駅だ。線路はほぼ東西だから、この時期のみ、写真のように、南側にある嵐山方面行きホームが斜光線に包まれ、ホームで待つ乗客たちを優しく照らし出す。▲車折神社駅から見て、背後の愛宕山の右に陽が沈むのも、この時期だけ。日没後の駅、わずかに空の明るさが残るトワイライトタイム。このような状態は、よく晴れた日の日没の20分後から30分後の約10分間に限定される。それだけに、本数の多い線区でないと、なかなか出会わない。▲有栖川駅、すぐ東側に神社があり、大木が茂っている。嵐電の線路は、それを切り裂くようにして、北西方面に伸びている。北西方面、ということは、この時期のみ、夕陽ギラリの狙える場所となる。西側の踏切のすき間から、真正面に向かってくる“パト電”の105号を待った。
▲こちらは、西大路三条、ここは正しく東西に走っているから、この時期は北側から夕陽が射し込む。ここでも、“パト電”をとらえる。“パト電”は、近くでは京阪石坂線、近江鉄道にもあり、各地で走っているが、この嵐電のパト電が、いちばん愛嬌があると思う。事実、契約期間が切れて塗色を戻す予定のところ、好評のため延長したとのこと。▲従来の塗色の301号と、新塗色“京紫”の622号が交換する。嵐電のオリジナルスタイルを残すモボ101・301形のうち、さらに原色となると、102、103、301のわずか3両だけとなり、遭遇するチャンスは低くなる。▲山ノ内駅にも寄ってみた。すっかり陽は暮れてしまい、この時期としての特徴は見出せないが、もっとも路面電車らしい雰囲気を保っている、この付近は好きな区間だ。ホーム(安全地帯)の幅が60センチで、一説には、日本一狭いホームと言われる。
総本家青信号特派員様
味のある写真に加えて今回も撮影に考慮すべき示唆に富んだ話で大変興味深いものがありました。今後の撮影の参考にさせていただきます。私の家の近くでも、冬と夏では日没の位置がえらい違っており、冬は車体が影でつぶれるのが夏は綺麗な斜め光線になる経験をしております。また、夏は日照時間がたっぷりあるのですが、真昼間は太陽が上にあり過ぎて車体下部が黒くつぶれていい写真にならないことはいつも感じております。逆に冬の昼間は空気が澄んでいることもあり割と綺麗な写真が撮れます。それにしてもデジカメになって夕方や早朝、場合によっては夜にいい写真が撮れるようになった気がします。生活臭を感じる蒸機列車を撮られた故天野克正さんは「形式などどうでもええんや。機関区などで1両ごとに撮った写真は興味ない。」と言われたことがあります。天野さんはオーソドックスな撮り方の私と違って非凡なカメラアイで撮影されていました。趣味の実現の仕方が異なり、独自のポリシーをお持ちでした。だから、私は形式にこだわらずどんな見飽きた車両でも気合いを入れて撮るべきだとは思っております。と言いながら、車両やカラーの好き嫌いは正直ありますね。次作を楽しみにしております。
準特急様
いつもの速攻コメント、たいへん励みになります。ありがとうございます。
太陽の角度というのは、季節によって大きな違いがあると、改めて感じています。調べますと、夏至と冬至では、日の出、日の入りの角度が、約60度も違います。この差があれば、季節が違うと、同じ場所でも、違った写真が撮れることになります。すぐ行ける近場に、季節・時間帯・天候の変化が感じられる撮影地を確保しておくことは、たいへん大事なことだと思います。
故天野さんの、太陽光線を巧みに使われた写真は、私もたいへん憧れました。いろいろと、お話を聞きたかったのですが、叶わぬ夢となりました。、